木材先物取引について(1)

□ 椎野潤ブログ(金融研究会第16回)  木材先物取引について(1)

文責:角花菊次郎

木材価格の乱高下に左右される経営から脱することはできないか、おそらく木材業界全体がこの問題を解決したいと願っているはずです。

2021年から始まった第三次ウッドショックでは世界的な木材価格の高騰や海上輸送のひっ迫による入荷遅延などによって国内の木材製材、プレカット、ハウスメーカー等はそれぞれに危機感を強め、資材・在庫確保に奔走しました。ロシアが侵略戦争を仕掛けた2022年以降は円安が進み、輸入コスト高に見舞われています。木材自給率が4割を超えたと言われていますが、6割は依然として輸入材に頼っている状況です。世界需給、産地動向、海上輸送、為替相場などの変動要因により、輸入材価格は不安定になり、それと同時に輸入材の代替需要が急増した国産材価格も大きく影響を受けました。

木材はコモディティ、つまり付加価値で差別化されず、価格と量で選択される商品となっているため消費需要や供給制約などで価格が決まります。需給がある程度見通せる場合は木材価格の変動幅も予測できますが、今回のようなグローバルな供給不安、急激な円安などは予測しがたい価格変動を生じさせます。木材がコモディティ化してしまっているとはいえ、木材サプライチェーンが木材価格の急騰、急落の影響をダイレクトに受けるような状態、価格の不確実性といった市場リスクに無防備な状態は避けたいところです。

一般的に輸入材の買い付けは四半期~半年ごとにされていると言われます。したがって、輸入材価格の水準が国内市場価格に反映されるのは半年先以降になります。このような将来の価格に関する不確実性だけでなく、先々に向けて木材をどれくらい生産したらいいのか、その時どれほどの需要があるのかといった将来の需給に関する不確実性に関する市場リスクも存在します。

この価格と取引量に関する市場リスクは、予約売買のような延べ取引によってある程度軽減できると思われますが、そのリスク回避には限界があります。半年先といった将来の市場状態に起因する不確実性は、現時点の現物市場ではなく先日付の先物市場が有するリスクヘッジ機能を利用することでしか軽減できません。

先物取引とは、将来のある時点(期日)である商品を取引する現時点で決めた価格で売買することを約する取引のことを指します。木材や合板など、将来のある時期に受け渡し決済すべき品物の値段と数量を現時点で確定しておくのです。1730年、大阪の堂島米市場で世界初の先物取引が行われたようです。また米国のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)では木材の先物取引が実際に行われており、木材価格の先行指標として認知されています。

先物取引では、価格の変動リスクをヘッジングという取引行為で取引の相手方に転嫁します。リスクをヘッジしたいと考えた場合、現物市場における契約とは反対の契約を先物市場で締結することになります。現物市場において木材を100円で買い付けを行った木材業者はこれと同量の木材を先物市場において100円で売る契約を締結するのです。そうすると現物価格と先物価格は多くの場合、ほぼ同時かつ同方向に変動するので、一方の市場における損失は他方の市場における利益で相殺できるようになります。例えば価格の下落局面では、現物市場において100円で買い付けた木材が倉庫に保管中に価格が80円に下落し20円の損失となったとしても、先物市場でも80円に下落しているはずなので、期日に100円で売る約定をしておけば差額20円の利益で相殺できるのです。これを売りヘッジといいます。逆に価格上昇局面では先物市場において100円で買い付けておけば、期日時点で価格が120円に高騰していても20円高く買わなければならなくなる損失を回避できます。これを買いヘッジといいます。

このブログでも紹介されていますが、林業・製材・加工・建築が一体となった効率的かつ効果的な情報連携、サプライチェーンの構築への取り組みが各方面で真剣に行われています。その中で、目指すべき「需給バランスの適正化による価格形成」に影響を与える木材価格の乱高下への対策として、木材先物市場の創設、そして価格変動リスクのヘッジングを本格的に検討する時期に来ていると考えています。

次回は、先物取引が成立するためには必ず反対取引が必要な点、さらにリスクのヘッジングには投機家と呼ばれる危険負担資本(risk-bearing capital)の存在が不可欠になってくる点など、先物取引という仕組みを導入にあたっての課題を考えてみたいと思います。

以 上
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

あんこがたっぷり入った饅頭を頬張っていると、この店の主人はどうやって原料を仕入れてこの価格で毎度安定した味を保っているのだろうかと感心することがあります。小豆や大豆などの価格は、天候や病虫害、作付け面積、国際情勢で大きく変動します。農家と契約栽培をする場合もあると思いますが、価格設定も協議がいるでしょう。木材需要も6割が輸入に頼っていますので、グローバル化による予測しがたい価格変動要素が加わります。
山元から、製材、加工、販売までの林業、林産業のサプライチェーン構築にとって、それぞれのステークホルダーの利害関係がありますので、利益配分や運営をめぐるコントロールは容易ではありません。しかし、カナダやスウェーデンでは、顔を合わせるプラットフォームの場において、「VCO」(Value Chain Optimization、バリューチェーンオプティミゼーション)がお念仏になっています。そのとき最も重要な話題、情報は、価格予想です。価格予想に基づいて、流通量のバルブの開け閉めが行われ、生産量、輸送量、目標在庫量、工場間の中間生産物の流れ、山側からの補充等が検討されます。ステークホルダー同士のポートフォリオ(選択肢)の多様化と活用によって、リスク管理と利益の最大化を図ろうとしています。
さて、このブログでは、将来の需給や価格に関する不確実性軽減や、需給バランスの適正化による木材価格の乱高下への対策として、先物市場が有するリスクヘッジ機能を利用することができるのではとして、木材先物市場の創設と、価格変動リスクのヘッジングを検討する時期に来ているのではという提言です。 先物取引でも市場の動向を予測することの重要性に変わりはないですが、これらの課題に先物取引の仕組みがどのように機能して、その有用性を発揮していくのかなどについて、勉強していきたいと思います。

 

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