□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第39回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて⑤椎野理論との出会い
北信州森林組合 堀澤正彦
境界明確化により施業地の集約が容易になり、さらに高精度森林資源データを運用することで、年間の工程計画をもとにした「計画生産」が可能になったことを前段までで記しました。並行して進めた生産設備(林業機械)の増強もあり、当然のごとく生産力は各段に向上しました。さらに、増大した原木管理のためのスマートフォンアプリを開発し、生産された原木をデジタルデータで管理する体制も整えました。
私たちのテリトリーは、大雑把に言うとスギ並材の産地です。規格(造材・選木)基準の見直しも行い、それまでの絞り出すような選木から生産効率を優先に切り替えたことで、以前に比べ淀みなく生産が進むようになりました。デジタルデータ化した原木管理システムを活かして直送体制も整え、物流管理もスマートになりました。
情報インフラ、高い生産力、物流管理体制と条件が揃い、生産は順調に進んでいきました。木質バイオマス発電が普及したことで低質材の需要が創出されたり、合板工場を含めた大規模需要先への納品機会が増えたことで、かつて経験した大事件に見舞われることはなくなりました。
でも、何かが違う。結局のところ、価格交渉力が弱いまま、大きくなった器に生産した丸太を放り込むのが仕事のようなっていたのです。今度は、条件が良くないのをわかっていても、投資した設備(林業機械)や人員を遊ばせることはできないので生産は止められない。計画生産とは安物の素材を投げ売りするための道具に思えてきたのです。
流れを変えなければと、思い悩んだふりしながらのある日。手持ちぶさたに「現代林業」を流し読みしていると、今まで見たことない、林業図書としては風変わりな記事のタイトルに目が留まりました。~椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」第1回ロジスティクスの発想で考える~ 椎野ブログの始祖であり、サプライチェーン理論の権威である椎野潤先生による林業関係者に向けた誌上ゼミが始まったのです。
連載を読む中で大きな気づきがありました。米国の小売り大手ウォルマートによるエブリデイロープライスについての解説です。単純に解釈すれば「毎日安売り」ですが、実際は、特売日に頼らない販売と生産の無駄排除を小売り、製造の情報相互連携により成し遂げた教科書的な事例です。前職でも研究していたことを思い出しつつ、これを林業に置き換えるために行動を起こさなければと思いました。
かくして、椎野先生に教えを乞うことを熱望するようになりました。
次回は、実際にお会いして伺った、椎野理論の神髄についてお話します。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
林業機械化を推進し、年間の計画生産を可能にし、生産された原木をデジタルデータで管理する体制が整って、生産が順調に進んでも、価格交渉力が弱いために足元を見られて、素材の投げ売りに追い込まれてしまいました。一般的に、需要が低迷して業界全体の生産設備が過剰であったり、買い手市場であったりすると、価格競争に巻き込まれて体力勝負になっていき、賃金カットで耐えなければなりません。
そんなときに、椎野先生の連載記事が目に止まりました。徳川家の剣術指南役柳生家の家訓に「小才は縁に出合って縁に気づかず、中才は縁に気づいて縁を生かさず、大才は袖すり合った縁をも生かす」というのがありますが、多くの人が読み過ごしてしまうところをしっかり受け止めて、そこからアクションを起こします。ここが堀澤さんの凄いところだと思います。