森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて⑥椎野先生の教え

□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第40回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて⑥椎野先生の教え

北信州森林組合 堀澤正彦

椎野先生に会いたい!思いはほどなく実現しました。酒井先生(椎野塾塾頭、東京大学名誉教授)の視察を受けたおりに林業サプライチェーンの夢を話したところ、「椎野先生を連れてこなければ」と呟かれました。喜びながらも正直なところ話半分だったのですが、間もなく「現代林業」の特集記事になる対談ということで、椎野先生とお話をする機会が訪れました。
当日は、気持ちがオーバーヒート気味で先生を困らせてしまいましたが、その後もメールをしたり、機会があるごとに椎野先生を訪ねて教えを乞いました。ウォルマートとP&Gやかつて日本の木材市場を制圧したとも言えるウエアハウザーと中国木材の関係性について学び、なぜ彼らは成功を収めることができたのかを考え続けました。
彼らは業種や取引形態が違います。当然、成功に結びついた取組みもそれぞれです。当初はテクニカルな部分に気を取られ、成功者の手法を林業にいかにして置き換えるかばかり考えていました。ところが、椎野先生曰く「あなたのこれまでの取組みのなかに答え(要素)があり、これから作るのは相互信頼の仕組みである」とのこと。
はてさて、禅問答の如くです。サプライチェーンに傾倒したのは、築けない信頼関係を機械的に解決することを期待したからです。なのに、師は今持つもので信頼関係を築けと。何とも悩ましい教えでしたが、椎野先生の口癖ともいえる「透明情報」というフレーズとつながり道筋が開けました。
「透明情報」とは濁りのない澄んだ情報を指します。いくら綿密に計画生産をしても製品になってからでは情報は濁ります。生産や販売の前に供給側と需要側の双方向で情報を共有してコストもオープンにしなければ透明情報になり得ない。林業の場合、そのつながりは丸太と製材ではなく森林と建築であるというのです。丸太の生産計画より前に森林デジタルデータと建築データ(設計、建築計画)を結ぶこと、コストさえもオープンにした透明情報による相互信頼の仕組こそがサプライチェーンマネジメントであると導かれました。
かつて、建築の主役の座が大工にあった時代。私が林業にかかわる以前のことですが、大工の木拾いをもとに立木の選木をしていたこともありました。まさに森林と建築がつながっていたのです。これを現代流の仕組みで再構築すること。そして、森林のデジタルデータが絶大なるリソースであると理解しました。
残念ながら、ほどなく組織での立ち位置が変わり、自身としては手つかずのまま特段の成果も残せず今に至ります。しかし、扉は閉じることなく、後輩たちの手による森林と建築をつなぐプロジェクト、ドローンtoハウジングにつながりました。まだ課題も多くありますが、真の林業サプライチェーン近い将来の開花を期待させるものだったと確信しています。
次回は、森林組合の進むべき道について、思うところを述べてみます。

 

☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
森林と建築を結ぶ、というなかなかできなかったことを実現されたのが、鹿児島での鹿児島建築市場という取組を実施された椎野先生です。まさに先導者です。
私は、この取組を7年ほど前に知り、椎野先生の教えに触れることができました。この取組をもっと早くに知っていれば、新生産システムなどの施策の中に、森と建築を結ぶサプライチェーン構築の施策を導入したり、顔の見える家づくりなどの施策における建築行政との連携も早くに促進できたかもしれません。自分の不明を反省するばかりです。
林業行政は、消費者対策、川下の政策が打てず、建築住宅行政や紙業などの行政に依存せざるを得ないため、サプライチェーン構築という政策を講ずることが不十分でした。現場でも森と建築の信頼関係を考えることは難しかったのではないかと想像します。素材生産。木材加工、木材流通が多段階にわたって森と建築を遠くに分断してきました。特に川中においては、コストや値段を隠して買い叩く、欠点を隠して売り逃げするという不信感ばかりが沸き起こることが横行していたと思います。自分だけが儲けられれば良かったのです。
その状況から、私は、国産材関係者は運命共同体にならなければ生き延びられないと思っていました。新生産システムの事業では川下までには至っていませんが、コスト、値段も含めた
情報共有をコンサルという第三者に委ねられないかと試みました。何らかの芽は残ったと思いますが、その試みは失敗に終わりました。その失敗の後に、椎野先生から、当事者間の透明情報による相互信頼という目標を学び、何とかできないかと事あるごとに模索してきました。とても難しい課題ですが、椎野塾に集う方たちが私を勇気づけてくださっています。需要が縮む中でこそ解決の糸口があるのかもしれません。
堀澤さんも椎野先生との議論の中で、透明情報に基づき、森林情報に対応した需要を創り出す、需要情報に応じた生産・供給を行う、そして、そこに直接的な需要側と供給側の信頼関係を築かなければならないことを学ばれたのだと思います。堀澤さんの考える森林組合としての進むべき道に期待します。

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