□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第20回) 再造林のデジタル化で持続性のある生業を地方から興す③再造林デジタル化への挑戦
前回、私は再造林と保育について取り組むべきことを以下のようにまとめてご紹介しました。
(1) 再造林計画時のデジタル上でのシミュレーション
(2) 現場作業員が計画を把握し、作業に活用できるデバイスとアプリケーションの開発
(3) ドローンなどを使った再造林資材運搬作業の効率化
(4) 鹿ネットなどの位置情報の把握と見回り業務の省力化
(5) 苗木の植え付け箇所の位置情報を登録し、植栽段階から単木管理を行う
(6) 再造林・保育に関わる計画と施業のデジタルデータをオープン化する
これらの取り組みの結果、次のような効果が期待できます。
・いつ、どこで、誰が、植えた樹種などというように単木単位で把握することが可能となり、その後の生育状況把握や間伐計画時の基礎資料となります。
・木材としての活用期を見据え立木状態での在庫管理にも貢献します。
・植え付け位置等がデジタル化されることで、今後、技術開発等で機械による自動化・省力化が進む際の重要な基礎情報(機械判断における位置情報の重要性)となります。
・計画時と施業時の差分を機械学習化することで、より正確なシミュレーションやナビゲーションを可能にします。
・保育期の下刈り作業時であってもスマートグラス等で植栽箇所が把握できるため、誤伐等を防ぐことができます。
・伐採されたとしても、確実に再造林がされたということが客観的に「見える化」されるますので、例えば、Jクレジットとしての信頼性を高めるなど、取引市場の活性化に寄与することができます。何より、資金拠出者への説明責任にも貢献することができます。
・整備されたデジタル情報を基に、森林環境税やJクレジットを活用したマネタイズの仕組みを取り入れることで、山側への資金流入を図り、従事者の所得向上や処遇改善に寄与することができます。
・林業といった産業や山間地での生活への関心を高め、新たな担い手確保に寄与することができます。
・地域の持続可能性を高めること(地方創生)に寄与することができます。
このような整理を踏まえ、改めて、デジタル技術の現在地から見渡してみると、先に申し上げた必要となる「アプリ」も「デバイス」も何だか実現しそうに思えてきます。では、残りの「仕組み」はどうでしょうか? こちらも森林環境税やJクレジットといった前向きな制度が動き出していることなどを考えると、何だか実現できそうに思えてきます。パーツパーツは、どれも十分揃っていて、パッケージ化が出来ると、グッと実現可能性が見えてきそうです。次に、果たして、肝心のその「パッケージ」を構築したり、それを利用する「プレイヤー」は存在するでしょうか? 冷静に考えると、今の私では「アプリ」も「デバイス」も「仕組み」も作れそうになく、具体的なユーザーサイドの一人という状況です。
しかしながら、オープンイノベーションの具体として、各方面の英知を集結し、再造林のデジタル化に取り組む事ができないものでしょうか?造林と保育の現場から明るい未来を思い描く毎日を送っていますが、こんなことを考えると労働負荷の高い辛い作業にも希望が持てます。
森林や立木も他の財産と同じく所有権が存在はしますが、その便益に目をやると計り知れないものがあります。水・食料・エネルギー、はたまた人口減少や少子高齢化、さらには生物多様性など、何かと制約条件が多い昨今ですが、森林は懐深く私たちの挑戦を待ってくれているように思います。
将来世代に私たちは何が残せるのか?という「問い」に対し、日本が誇る森林資源を持続可能な形で引き継ぐことは勿論ですが、そのためには、森林にまつわるデジタル資産も引き継いでいくことが重要だと強く考える今日この頃です。造林木が木材として利用されるにも数十年の時間を要し、将来の需要を予測することは至難の技かもしれません。社会環境が大きく変わるであろう将来世代の皆さんのことを考えると、今使える技術は大いに活用し、胸を張って引き継いでいきたい。その一心です。再造林というタイミングはその可能性を持っていると思います。
それでは、造林・保育に携わる者の責務として地道に取り組みを進めていくことをお誓いし、この辺で文章を締めたいと思います。
私たちの仕事は将来に向け十分地図に残せる仕事であると信じています。
椎葉 拝
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
デジタル技術による造林・保育の見える化パッケージが統合されて開発されるためには、そのパッケージが売れなければなりません。需要の大きさが必要となります。需要の大きさを生むためには、パッケージの便益のPRが必要です。書かれている効果=便益を具体化していけたら良いと思います。森林経営現場の観点から、具体的にどんな情報があって、それを組み合わせられるといいかなという想像力を働かせて、便益を導き出してください。仲間にそのアイデアを諮って需要の大きさを確かめて、それをデジタル技術、AI技術を運用しているところに持ち込んで、まずは構築していくのでしょう。そこから、デバイスや機械の応用とか開発などへと発展させるのだと思います。その際にコストパフォーマンスを考えなければなりません。構築する方は、必ずしも森林・林業のことを知っている必要はありません。デジタル情報というモノと得られる便益が明確であればパッケージは構築できるでしょう。ただ、森林・林業・造林の意味についてシンパシーがないところでは、売れる売れないというお金の話だけになってしまいますから、ビジネスライクになるかもしれませんが。
どうぞ、ぜひ形にしてください。
私は、植栽木の単木管理について、木材利用の面から考えたら面白いと思っています。外からは見えない材の中の年輪幅や節の位置などを一本一本追えないかということです。定期的に枝打ちロボットのような機械に枝打ちさせるだけでなく、幹の太さ、断面形状、曲がり、枝の位置、節の深さなどを計測させることができたらどうでしょうか?
また、苗木の位置情報デジタル化は、今すぐでもできそうに思います。ドローン等で苗木の周りだけ除草剤を撒くことで人力の下刈りを不要にし、周囲の植生の発達によってシカの苗木被害も低減できるのではないかとも思っています。
更に、これらの情報をドローンなどによる樹冠の画像情報と併せれば、AIによって間伐、択伐などをその時々の材の利用に応じて自動的に選木、伐採することも可能になります。現在の森林をドローン等の画像情報によって解析し、施業を計画・実行する先には、そのような未来が広がると思います。