□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第19回) 再造林のデジタル化で持続性のある生業を地方から興す②再造林デジタル化への道程
林業における再造林や保育といったカテゴリーを魅力ある仕事にするために、デジタルをベースに「アプリ」「デバイス」「仕組み」という手段を用いてPDCAサイクルを高度化する、そこに至る具体的な道程について、私の考えを以下に記します。
(1)再造林計画時に予めデジタル上でシミュレーション(デジタル上での仮想プロットまで)を実施しましょう。
そのためにはドローンレーザーやシミュレーションのためのアプリ(QGIS上で動くプラグインで十分です)が必要になります。結果として、苗の数を精査できます。
また、獣害対策施設(鹿ネット等)のプランニングも可能となります。何より植栽直前の地形データの把握と植栽予定位置等のプロット(位置情報)が手に入ります。苗が足りないという声が聞こえてくる状況にあって、苗木を有効に活用できます。現場を見誤り、植えることが出来ずに余剰苗が発生したり、部分的に植栽密度が高くなってしまうケースを防ぐことにも繋がります。「どんなに傾斜がきつくても慣れてくれば平行感覚が磨かれ綺麗に植えることができるようになる・・・経験を積めば必要な苗木の本数は頭でわかる・・・」このような感覚で今の若い人たちは共感を持ってくれるだろうかと危惧します。そして、余った場合の苗の行先は?という疑心暗鬼からも解放されます。
(2)計画時のシミュレーションを現場作業員がデータで把握し、実際に現場で活用できるよう、デバイスとアプリケーションを開発しましょう。
そうすることで、次号以降で説明するように大幅な作業効率化(生産性の向上)が見込まれます。AR(拡張現実)等で植栽計画地がプロットされるようなアプリの開発・提供は、ポケモンGOを我が子に代わりせっせと勤しむ自身の経験からも技術的に難しいものではないように思います。(私は開発スキルを持ち得ませんので勝手申し上げています。)
(3)計画時のデジタルデータを利用し、苗木や鹿ネットといった資材をどこに運べば効率的であるか位置情報付きで把握したうえで、ドローンなどを使って運搬作業を徹底的に省力化しましょう。
その結果として、林地内で作業員の無駄な動線がなくなり労働負荷の軽減や怪我・事故の未然防止にもつながります。苗木や資材の運搬を人が行う必要がなくなり生産性は大幅に向上します。人手不足を嘆き、出来ない言い訳を考えてみたところで、現行の作業システムではいずれ限界が来るでしょう。(既に限界を迎えているのかもしれません。)ドローンなどの活用を前提とした作業システムに変革することで、人は、苗木を植えることにより集中できますし、新たなサービスが生まれ、雇用の創出にも貢献します。災害時の孤立地区支援や平時の買い物支援などへの展開は強みとして優位性を持ちます。
(4)計画時のデジタルデータを活用しながら鹿ネットといった獣害対策を施し、併せて、実際の鹿ネット等施設の位置情報を把握しましょう。
その結果として、鹿ネットの見回り業務といった維持管理が効率化します。自動運転技術の場面では、LiDARで検出可能な特殊な塗料が開発されていると聞きます。例えば、その塗料を鹿ネット等施設にも応用すれば、ドローンでの点検・見守りはより精度を増すかもしれません。ワイヤー入りのネットなどは、自然界には存在しない、いわば産業廃棄物となる物です。時間の経過とともに忘れ去っていい代物なのでしょうか。
(5)これらのデジタルデータに基づき実際の植え付けを行いましょう。その際、植え付け箇所の位置情報をデジタル上でプロットできるアプリとデバイスを開発し、そのデバイスを使って植え付け作業時に位置情報を登録しましょう。
登録することで作業者の熟練度や労務管理が可能となります。例えば、日本独自の宇宙インフラである準天頂衛星「みちびき」がもたらすセンチメートル級の測位技術とデバイスの小型化は新しい価値を産みはじめています。スマートウォッチ(位置登録デバイス)で植え付け箇所を登録するアウトプットとして、1本あたり○○円日当上乗せなどが実現すれば、作業者の所得向上とモチベーションアップにも寄与します。
(6)計画と施業のデジタル情報を抱え込まず、場面場面で共有する仕組みを作りましょう。
デジタル情報は広くシェアすることで新しい価値を生みます。世代と空間を超えて活用していく基盤と参加の枠組みづくりはG空間情報センターのように既に広がりはじめています。
以上の取り組みによってどのような効果をもたらすことができるのか、次回はそれをまとめてみます。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
椎葉さん、はじめまして。
合同会社木人舎(こびとや)のホームページを拝見させていただきました。椎葉さんは熊本県球磨地方の森林に囲まれて生まれ育ち、人吉市役所のいろいろな部署を勤務され、内閣官房地域活性化統合事務局に派遣されたりもしておられます。2020年(令和2年)7月の球磨川流域を襲った豪雨災害では、被災者の住宅支援や復興まちづくりに従事されました。2022年(令和4年)3月末に残りの人生を森林や林業を将来世代に繋いでいくために退職されました。高校時代から故郷を離れて外の社会も見てこられたご経験も踏まえて、これからの林業をどう考えておられるのか、貴重な提言になるのではと思います。
前回のブログでは、皆伐推進者ではないけれども、低コスト造林も当然目指すべきであるとして、再造林デジタル化を提唱しておられます。若い人が再造林や保育に共感を持てるようにするためにも、予めデジタル上でシミュレーションを実施し、地形データと植栽予定位置情報によって、苗の数を精査し、鹿ネット等の計画や設置後の効率的な維持管理も可能となるようにしようとしておられます。労働負荷の軽減や怪我・事故の未然防止にもつながり、大幅な作業効率化と省力化が見込まれます。
今はどこも熟練の方がリタイアを迎える時期にあると思いますが、一方で林業大学校などの卒業生が輩出されはじめ、若い人の人生の価値観も変わりはじめています。森林資源とともに人材も変わり目にあると思います。世代間のバトンタッチにとって、デジタル情報は新しい価値を生んでいくことになると思います。再造林のデジタル化を嚆矢に、今まで想像もしていなかったような、革命的な価値が林業に生まれそうです。