令和5年(2023年)を振り返って

椎野潤ブログ(伊佐研究会第15回) 令和5年(2023年)を振り返って

 

11月中旬、一般社団法人日本林業経営者協会で講演をさせて頂き、それを機に複数名の日本で有数の大山主、林業経営者の方々と交流をさせて頂く機会を頂戴しました。その中で特に感じたことはその方々は、林業における現代の様々な課題に対することも含め、累々と守り続けて来られた家業の在り方、また所有する山林内での文明、技術の変遷を背景にして、これからの林業をどのように拓いていくか、と悩みつつも前向きに文化観、歴史観をもって堂々と試行錯誤されているという点でした。行政指導などによる一辺倒な林業ではなく、さまざまな視点からその土地の潜在能力を活かし、新しい技術の実証や、森林空間活用の開拓なども研究され、山林業を家業として未来へ継がれる姿勢は、とても迫力がありました。また12月上旬には元森林総合研究所森林環境部長の藤森隆郎先生が上京してわざわざお越しくださって会食する機会を得ました。現在の林政が産業への傾倒にのみ向かいがちな状況下で、森林のあらゆる機能を認識し、推敲を重ねることの大事さのお話しを頂き、森林パートナーズ設立時に先生の御本から大きな確信と後押しを頂いたときのように、その深い学問と広い見識に感動を覚えました。その皆様から共通して共感を頂くのは当社伊佐ホームズの木を美しく表現する家づくりでした。文化感を持った森づくりから生まれる木材は、やはり文化感を持った使い方をしていかないといけない。美しい家をつくり、美しい街並みをつくることが地域住民として地域の森林との最良の付き合い方だと、改めて身が引き締まり、家づくりに身を置く誇りが大きくなります。年末にこのような原点回帰への気づきの場を多く頂けたことは有難いです。

本年は森林パートナーズ内で参画工務店が増え、原木調達量が1,000立方メートルを超え、着工物件数は約50棟となり、去年までに比べ数量的に向上した年でありました。ただし、原木出材に関しての課題が多く、高性能林業機械を導入する研究を重ねて参り、来年は実証を始めてサプライチェーンのシステムに直結し拡大していくことを検討しております。新規開発した、プレカット工場と工務店間のECサイトは、製材に限らないプレカット建材のトレーサビリティ情報を内包することが出来るようになり、さらに既存システムと直結し今後DAO(分散型自立組織)やNFT(非代替性トークン)の考え方を導入することで、木材利用の対価と山への利益還元を直結させることが出来ると構想しております。また埼玉県行政との協同で、県産木材を安定的に流通させるための議論を、多くの有識者、関係事業者と協議会として行って参りました。各所における課題とその対策の整理を行い、生産情報と需要情報の連携の必要性の共通認識や、目標のためのボトルネック抽出、既存制度の見直しなど明らかになりはじめ、今まで県内で滞っていたものが、まだまだ流れるまではいっていませんが、透明度が増してきており今後に期待がもてると考えております。去年から継続して推進している熊本小国における森林パートナーズ事業の横展開では、森林所有者の規模や、素材生産の運営の違いから、東京埼玉の形とは似て非なるものとなりつつありますが、これは嬉しいことで、基盤のシステムはそのままでサプライチェーン内での変化対応を事前に想定したカスタマイズ計画が組むことができ、今後の実装が楽しみです。そして前回のブログで報告させて頂いた「サザエさん森へ行く 植樹ツアーin秩父2023」では、木材消費者、都市生活者との共感を強めることができたと実感しており、この実績をより確実なものにするために、来年も継続しより良い形で実行していくように行政や鉄道会社と話し合いを進めております。

生成AIやIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)などさまざまな新技術を積極的に取り入れ活かし、世界を豊かにしていかなければなりません。そしてそのような技術に振り回されないためにも歴史、文化に根付いて確固たる志に生きなければなりません。来年は、情報の精度をより高めて仕組みを円滑にし、美しい住宅と美しい森林をつくって参ります。

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

木を美しく表現した住宅は、洗練された日本の文化を支え、育んできました。その良さや独特の景観を海外の方はいち早く気づき、昨今の日本ブームの一因になっているのかもしれません。

森林パートナーズ内での参画工務店が増えてきたのは喜ばしいです。原木出材に関しての課題が多いとのことですが、林業を家業としてこられた方の意見も参考にしながら、これからの日本の森づくりはどうあるべきかの議論を深め、林業作業現場での省力化、自動化、情報化を図っていかなければと思います。県産木材を安定的に流通させていくためには、正確な需要見通しに基づく透明度の高いサプライチェーンが不可欠であると思います。

未来に進むためには、過去を振り返り、分析し、戦略を立てることが重要ですが、来年は本稿で開陳いただいた原点回帰への気づきが大きく開花していくことを祈念し、皆で応援、盛り上げていきたいと思います。

 

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