恒久仕様の木造モバイル建築とは(その5) ~まちづくりとの調和と動産としての新たな価値の創出~

椎野潤ブログ(長坂研究会)  恒久仕様の木造モバイル建築とは(その5)

~まちづくりとの調和と動産としての新たな価値の創出~

 

一般社団法人日本モバイル建築協会 代表理事 長坂俊成

1.まちづくりとの調和

日本モバイル建築協会は、森林とつながる恒久仕様の木造モバイル建築の普及に取り組んでいる。木造モバイル建築には大型パネルユニット方式とボックスユニット方式があり、工場で製造したユニットをトラックで輸送し連結・積層することで、さまざまな規模や間取りの住宅・非住宅を建設することがきる。建設した後も、基礎から外してユニット単位に分解し何度も移築することができる。また、恒久仕様のため、耐震性、断熱性、耐久性は一般住宅と同等以上の性能を有している。

モバイル建築という新たな建築方法やその活用方法は、現段階では一般に周知されていないため、自治体から「モバイル建築は、トレーラーハウスと同じように、農地や調整区域で農家カフェや簡易宿所を開設できますか」という問い合わせや、民間事業者から「ロードサイドでホテルを経営したいがモバイル建築には固定資産税はかかりませんか」という質問を受けることがある。モバイル建築は、トレーラーハウス(建築ではなく道交法・道路運送車両法上の車両)やコンテナハウス(建築基準法に適合するためにJIS鋼材を利用し構造を補強した鋼鉄製のコンテナユニットを使った建築。車台に載せてトレーラーハウスとして運用されているものもある)、ユニットハウス(箱型の軽量鉄骨の建物で主に仮店舗や仮設事務所等として暫定利用される)、プレハブなどの仮設構造物(建築基準法第85条第6項及び7項)と混同されることが多く、モバイルという語感から、安全性や性能、耐久性などが過小評価される場合がある。

トレーラーハウス(車両)や車両タイプのコンテナハウスは、実際には移動しない施設にも関わらず、国のあいまいな解釈注1,注2を受けて、自治体によっては、建築基準法が規制する単体規定(構造耐力、建築防火、建築衛生等に関する安全確保のための性能に関する技術基準)や集団規定(建築物の集団である街や都市において要求される安全かつ合理的な土地利用、環境向上のための建築物の秩序を確保するための基準)を回避し、都市計画や土地利用、税制を歪める運用がなされている実態がある。

他方、モバイル建築は建築基準法上の本設の建築物(恒久仕様)として適法に建築することができ、かつ、基礎やライフラインから容易に切り離し、異なる地域に異なる用途で適法に移築を繰り返すことができる。そのため、モバイル建築は、あらかじめ地域の移動や用途変更の可能性を考慮し、断熱性能や積雪荷重、防火・準防火地域内の制限など、地域ごとに異なる基準に適合することや、旅館やホテル、民泊など特殊建築物の制限(例えば、規模に応じて居室に難燃材料を使用することや廊下や階段、通路に準不燃材料を使用する等)に適合する工夫がなされている。

自治体等が公共的な視点から調整区域や農地、自然公園等でモバイル建築を恒久的な施設や住宅として利用するためには、建築規制はじめ、都市計画や土地利用、インフラ整備、環境保全、景観や文化財保護、防災対策、地域福祉、農業振興、観光振興などの包括的な視点から立地の可否を判断する枠組みを整理することが求められる。ある自治体では、歴史的景観の保存を目的とした景観ガイドラインの規制が全地域にかかり、若い世代のニーズにあったデザインや性能の建築が困難となり、地域から若者が流出するなどの例がみられる。モバイル建築は、地域の景観と調和する色調や木質の外皮などを選択できる柔軟性を有しているものの、景観ガイドラインの縛りが不必要に強すぎると地域から排除されることとなる。

モバイル建築は、建物のスケルトン(柱・梁・床等の構造躯体)とインフィル(住戸内の内装・設備等)を分離することができる。共同住宅の場合、住戸の一部がスケルトン状態でも居室であることが確認できれば建築基準法に基づく完了検査が可能となり登記も可能となるが、戸建住宅の場合、スケルトン(トイレ、システムキッチン、ユニットバス、ドア等が無い状態)では、建築基準法上「住宅」として認められないため、住宅地に母屋の離れ(住宅)として増築することや、DIYにより住まい手がライフサイクルやライフスタイルに応じてインフィルを段階的に改修するなどのニーズに対応できないことがある。世代を超えてリユースが可能な長寿命のモバイル建築の特徴を活かし普及するためには、建築規制への適合やまちづくりとの調和が求められる。

2.動産としての新たな価値の創出

モバイル建築は「建築の製造業化・オフサイト生産」を意味し、工場で非熟練工が安全かつ高品質に建築ユニットを製造することが可能となり、職人の高齢化や職人不足の問題の解決や労働環境の改善に寄与する。また、一度建設した建築物を基礎から分離し解体せずにユニット単位で移築を繰り返すことができることから、モバイル建築は「不動産の動産化やリユース」という新たな価値を創出し、社会の課題解決に貢献することができる。土地の価値と建物の価値を切り離すことや、所有と利用を分離することができる「動産」としてのモバイル建築は、リースやレンタル、ノンリコース型の住宅ローンなどとの親和性が高く、新たなファイナンス手法により、モバイル建築の利用が促進されるものと期待される。

ノンリコース住宅ローンとは、住宅の価値を上限とする有限責任の住宅ローンで、契約者が失業や病気で住宅ローンを返済できなくなった場合に、住宅を手放せば残債の返済義務がなくなる契約である。しかし、中古住宅の流動性が低く、かつ、中古住宅の建物の評価が困難などの理由から、我が国の金融機関はノンリコース型住宅ローンには関心が低い。唯一、60才以上の高齢者向けのリバースモーゲージ型住宅ローンにノンリコースの特約がある。返済期間中は契約者が利息のみを支払い契約者が死亡した際に相続人が自己資金で残債(元本)を返済するか、住宅を売却して返済し完済するもので、売却代金が残債務を下回っても相続人は残債の返済は免除される。

モバイル建築については当協会が規定する住宅性能の基準に準拠することで適正な価格を評価することができる。土地と建物を分離し建物の価格を評価し、適正な価格で中古住宅を売却(移動も可)できれば、金融機関の貸し倒れリスクが軽減され、比較的安いコストでノンリコース住宅ローンが成立する可能性がある。返済不能となったモバイル建築の残債を自治体が引き継ぎ公営賃貸住宅化し、地域を離れずに生活再建を支援することや、移築してコンパクトシティー化すること、さらには、移住定住のための体験住宅等としてリユースすることができる。

また、モバイル建築の「動産」としての特徴を活かし、リース物件として運用することも可能となる。例えば、企業がワーケーションや福利厚生施設としてモバイル建築ユニットをリースして自治体が保有するキャンプ場などに貸与し、企業が利用しない期間は自治体が宿泊施設や移住体験施設として使用収益することで地方創生に貢献することや、国難級の災害時に動くみなし仮設住宅として被災自治体に貸与又は譲渡する「社会的備蓄」に貢献することができる。なお、リース契約が終了したモバイル建築は自治体に所有権を移転し継続して使用することで、動くみなし仮設住宅の社会的備蓄を増やすことができる。

前回のブログ(その4)では、森林とつながる恒久仕様の地産地消のモバイル建築を実現するためのサプライチェーンについて言及したが、今回は、森林とつながるサプライチェーンが成立するためにはまちづくりとの調和が求められることや、モバイル建築の動産としての可能性を活かした社会課題の解決の可能性について紹介した。

 

注1)「トレーラーハウスの建築基準法上の取扱いについて」(平成9年3月31日建設省住指発第170号)

トレーラーハウスのうち、規模(床面積、高さ、階数等)、形態、設置状況(給排水、ガス・電気の供給又は冷暖房設備、電話等の設置が固定された配管・配線によるものかどうか、移動の支障となる階段、ポーチ、ベランダ等が設けられているかどうかなど)等から判断して、随時かつ任意に移動できるものは、建築基準法第 2 条第一号に規定する建築物には該当しないものとして取り扱うこと。

注2)「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」(一般財団法人建築行政情報センター、2017年)

バス、キャンピングカー及びトレーラーハウス等の車両(以下「トレーラーハウス等」という。)を用いて住宅・事務所・店舗等として使用するもののうち、以下のいずれかの観点により、土地への定着性が確認できるものについては、法第2条第1号に規定する建築物として取り扱う。なお、設置時点では建築物に該当しない場合であっても、その後の改造等を通じて土地への定着性が認められるようになった場合については、その時点から当該工作物を建築物として取り扱うことが適切である。

【建築物として取り扱う例】

◯ トレーラーハウス等が随時かつ任意に移動することに支障のある階段、ポーチ、ベランダ、柵等があるもの。

◯給排水、ガス、電気、電話、冷暖房等のための設備配線や配管等をトレーラーハウス等に接続する方式が、簡易な着脱式(工具を要さずに取り外すことが可能な方式)でないもの。

◯ 規模(床面積、高さ、階数等)、形態、設置状況等から、随時かつ任意に移動できるとは認められないもの。

以上

 

☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

東日本大震災の時に、あまりにも膨大な仮設住宅の調達が必要になりました。私が仮設住宅に関心を寄せたのは実はその時からです。それ以前の阪神淡路大震災や新潟県中越地震などでは、そこに思いが及ばなかったことは、いかに山ばかりを見、住む・住まいということに関心を持っていなかったわけで、私の反省です。

その意味から、モバイル建築に強い関心を抱いたのですが、平時に利用しながら、仮設住宅、さらには災害復興住宅として利活用できると教えていただいたモバイル建築が、建築の規制的にも恒久的な住宅としての性能を有し、今後の社会における様々なニーズの中で、その局面、局面に対応でき、これからの住宅のあり方を変革していくことができるものであることがよくわかります。

木密地域の整理であるとか、災害危険地からの集団移転であるとか、過疎地域の集住化であるとか、地方移住など、これからの社会における住まうということに関する課題を解決する手掛かりになると思います。

また、住宅の動産化は、これまでの建築物の概念を突き破っており、制度がこの変化についていけないという状況を作り出していくものと思います。普通なら制度への適合に様々な障害が起こると思われるのですが、このモバイル建築のすごい所として、現行の制度にもきちんとハマるように工夫されていることがわかりました。長坂様をはじめ協会の皆様のご努力に敬意を表します。

このような変革を進めるためには、まず普及できなければなりません。それが一定の広がりを有し、もっとこうなれば良いというような社会的要請として顕在化させることが大事です。ぜひ、行政だけでなく、住まうことについての社会課題を解決しようとしている方たちにも普及を進めてください。

山元から利用の現場へのサプライチェーンの変革も切羽詰まった問題で、スピードが求められる状況ですが、社会的な要請(ニーズ)を形成するために、まずは幅広い普及が必要なんでしょう。皆様の努力の結果を結集して幅広さを作り出しましょう。

 

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です