再造型林業協定の内容と意義

椎野潤ブログ(塩地研究会第十回) 再造型林業協定の内容と意義

 

文責:文月恵理

先日、前回のブログでお伝えした「再造林費用を上乗せした価格での木材取引協定」の内容が明らかになりました。ウッドステーション株式会社(以下ウッドステーション)のプレスリリースによると、大手の2×4建築資材供給会社であるウイング株式会社(以下ウイング)と100%再造林を実施してきた佐伯広域森林組合(以下佐伯森林)、佐伯市、ウッドステーションの4者が、再造林を促進する木材取引協定書を締結した、とあります。更に注目したいのは、この協定には価格(非公開)と取引量が明記され、実効性を担保する内容になっていることです。「本協定では、ウイングと佐伯森林は、再造林に必要とされる費用捻出を想定した木材価格で合意し、年間取引量は 10,000㎥以上と定めています。再造林に関わる費用や負担を透明化し、その応分責任を取引関係者で相互負担する仕組みづくりに着手します。佐伯森林では、本協定を実施するために、製材設備への投資を行い、取引拡大の準備を進めていきます。」この文章からわかるのは、再造林の費用を透明化し木材価格に転嫁しつつ、そのコストは取引関係者で相互負担する、つまり消費者(施主)に高い製品を押し付けることなく、価格競争力を持った製品を供給しようとしていることです。ウイングが通常より高い価格で買っても利益を出すためには、佐伯森林が多額の設備投資により質の高い製品を安定的に供給し、ウッドステーションが強みを持つ建築のデジタル化や物流システムの改革をとおして、利益率を大きく改善させる必要があるでしょう。佐伯市は、市のほぼ全域を管轄する佐伯森林の活動を制度面で支援しながら、事業内容を厳しく精査し、健全な発展を促す責任を負うことになります。価格と量が記載されたことで、この協定は当時者達の単なるアピールではなく、重い責任を負う覚悟を示すものになったのだと思います。

これまで2×4の主力だった外材の将来的な供給不安、逆ウッドショックとも言える国産材の価格下落は、建築のデジタル化を実現したウッドステーションの技術を仲立ちとしてウイングと佐伯森林を結びつけたと言えるでしょう。ウイングが今後対応を迫られる工場での人手不足や物流の2024年問題、佐伯森林が決断した巨額の投資やJAS認定など品質の確保、いずれも簡単な問題ではありません。しかし両者にはこれをきっかけに次のステージに進もうとする強い意志があり、その共感の底にあるのは「再造林」つまり森林を次の世代に引き継ごうとする行為です。

国内の主伐面積のうち、再造林が行われているのは3~4割だと、林野庁も認めています。つまり国産材の多くが、実は伐られた後がハゲ山になっていて、環境に優しくもなければカーボンニュートラルにも逆行する材料になっているのです。建築側もこれまでその事実を何ら意に介さず、都市の木造化といった美名に隠れて利益追求をしてきた感があります。知らない方が楽で、安く簡単に調達できたからです。皆伐したら再造林、もしくは残存木の価値を上げる正しい間伐や択伐による施業、それを経た木材かどうかの出自を問うことで、社会全体が森林の維持に対して応分な負担をするようにできないものでしょうか。この協定が、森林の維持に努めるのは当たり前、その上で技術力を磨き、自己変革を厭わず、新しい価値を世に送り出す、そんな人や組織が増えていくきっかけになることを願ってやみません。

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

今回は、サプライチェーンのコスト、中でも再造林に関わる費用や負担をチェーン内で透明化し、責任を相互負担することによって、チェーン全体の効率化を図り、コスト低減に結びつけていこうというものです。林業のサプライチェーンは2000年頃、これからの林業を救う意思決定システムとして研究が過熱したことがありますが、その後利害関係者の利益配分をめぐって海外でもうまくいっていないのが実情です。しかし、それでもバリューチェーンの最適化は標語のようになっています。

日本で再造林が行われているのは3~4割ですが、言い方を変えれば、国産材供給量3000万㎥のうち、再造林して更新しているのは1000万㎥しかないということになります。戦後のはげ山と燃料革命による薪炭林から針葉樹林への拡大造林にさかんに植林されました。当時のニュース映画を見ますと、「はげ山は郷土の恥」というナレーションがあり、全国で競争しあって植えていた感があります。助成はあったのでしょうが、コスト意識や投資感覚はうすく、将来家計の足しになればくらいの期待のもとに、「植林は善」という道徳観念が行動を突き動かしていたと思います。しかし、今の人に植林を押しつけるわけにもいきません。シカ食害対策とか、伐った跡には何を植えるかという高度な技術も求められます。

今回のサプライチェーンは製材原料、建築原料の共同調達であると思います。価格競争力を持った製品を山側から供給することによって、消費者(施主)の再造林費用の負担を避け、森林所有者は赤字を出さないで再造林することができます。家づくりを植林に結びつけようとして、施主が木材の原価として苗木代を負担するようにしようとすれば、国産材利用を証明するなどのインセンティブを付与し、別の理屈で助成を持ってくるなどの措置が必要かもしれません。今回は、「独立自尊」の精神で消費者には高い製品を押し付けないようにしていますが、今後、国民全体で造林費用を負担しあうならばJ-クレジットなども有用になると思います。

持続可能性があってこそ林業が支持されます。採取林業、収奪林業は特定の一部の人にしか利益をもたらしません。北米では森林を伐り尽くしたために、今では廃業した製材所が負の遺産として観光資源になっていますが、集落は消滅し、多くの人を養うことができなくなりました。今般クリーンウッド法が改正されましたが、合法性の証明は持続性の必要条件ではあっても持続性の証明ではありません。また、森林認証は森林管理の認証であって伐採作業の認証ではありません。そうなると持続可能な林業を構築するためには、価格競争力を持つブランド化が必要条件になってくるでしょう。そのためには、木材強度もひとつの項目になると思います。例えば、将来の需要を見込んで地位の良いいくつかの林分は択伐施業に切り替えて優良大径木を安定的に供給し、製材歩留まりの高い大径木から強度がある辺材を利用する仕組みを作り、利益率を高めることができればと思います。そう考えると、ビジネスとしての林業が成り立つようにしていくためには、今回の木材取引協定に話しが戻っていくのではと思います。

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