コロナ後の世界と林業政策

椎野潤ブログ(金融研究会第九回) コロナ後の世界と林業政策

 

文責:角花菊次郎

新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類感染症に引き下げられるなど、2019年に中国から始まったパンデミックもようやく収束してきたようです。完全な終息はまだ先のことになるのでしょうが、この疫病、私たちの生活に大打撃を加え、そしてグローバル経済を直撃しました。世界中の物流と人の移動が瞬時に止まってしまうことなど、現代に生きる人々が経験したことのない現象でした。ウイルスという自然界の存在がグローバル経済の脆弱性を露わにしたのです。

グローバル経済そのものは、2008年のリーマン・ショック以降、あまりうまく機能していません。米国でサブプライムローンと呼ばれる低所得者向け住宅ローンの不良債権化が引き金となって、同ローンが組み込まれ、証券化された金融商品の信用が失墜。この証券化商品は広範囲に使われていたため、金融商品全般が投げ売りされました。金融機関や投資家は金融市場から資金を引き揚げ、株価も下落するなど、世界的に金融機関の信用収縮が起きたのです。そして世界金融危機は、消費を減退させ、生産も落ち込み、Great Recession(世界的な縮小状況)と呼ばれる恐慌のような状況に近づいていきました。これに対し、「グローバル資本主義」の崩壊を防ごうとする先進国によって未曾有の財政・金融政策が実施された結果、幸運なことに懸念されていた世界恐慌ほどの景気後退には至りませんでした。このとき、資本主義経済の発展を疑わない人々が抱く、グローバリズムを歓迎し、経済成長主義を信奉し、イノベーションがすべてを解決してくれる、との信念は打ち砕かれたはずでした。

リーマン・ショックから15年が経ち、AI技術の開発、ビックデータなどの活用、ドローンや自動運転車の登場など第5次産業革命(Next Industry 4.0)と呼ばれる新たな変革の動きが、かつてのGreat Recessionへの危機感を過去の記憶へと追いやっているようです。コロナ・パンデミックにおいても、過ぎ去れば何事もなかったかのように物も人も動き始めました。

しかし、グローバル経済がリーマン以前の成長軌道に戻ったわけではありません。米国はコロナ禍への大規模な追加経済対策(給付金)による個人消費の過熱、エネルギー価格の上昇(コロナ禍からの消費回復、脱炭素政策、ロシアのウクライナ侵略などに起因)、労働コストの上昇などによる物価高に苦しみ、日本は史上空前の異次元経済対策「アベノミクス」によっても経済成長は滞ったままです。また、今年3月の米国シリコンバレーバンクの経営破綻や欧州クレディ・スイスの経営危機など、かつて恐怖を感じた金融機関不安の第2ラウンドが始まったかのようです。

リーマン・ショックを経験し、コロナ禍に取り憑かれ、独裁者の武力行使で世界貿易の秩序が崩れようとも、グローバル経済・資本主義の大きな流れは変わっていないのかもしれません。でも、その流れは限界へと接近し続け、様々な危機が途絶えることなく顕在化してくるという悲しい運命が待ち受けているような気がします。

このようなグローバル経済の中に組み込まれた国産材。輸入材との競合を余儀なくされる国産材にどのような将来が待っているのか、その予測は困難なだけに心配になります。

木材の世界需給、輸送船の確保、輸出国側の政治経済情勢などの要因によって引き起こされたウッドショック。今後も多種多様な要因によって動かされる経済。

私たちは経済的に国産材をどのように守っていったらいいのでしょうか。

外部要因の影響を緩和する輸入関税、自然条件の不利を穴埋めする補助金、国産材サプライチェーン全体での垂直連携、農業・土木工事など地域の物的・人的資源を活かす水平連携など。どのような林業政策を進めればグローバル経済・資本主義から日本の林業を守っていくことができるのか、独自の知恵を絞っていくことが求められると思います。

以 上

まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

提起されているのは過去の経験からでは解決できない課題です。その解決のためには、生態学で言う順応的管理といったような柔軟な対応が必要になると考えます。

国といった図体の大きい所で柔軟に対応することは非常に難しく、対応は後手後手に回ると思いますので、まずは自治体や民間企業といった所で柔軟に対応できることはしてもらいたいと言わざるを得ません。

国にとって決して重要物資とは言えない木材のための関税措置の仕組み、国庫補助金を仕組むためには、他の物品や類似の仕組みを模倣しなければ作れないのが現実です。近年では、唯一、緑の雇用事業という林業政策独自と言える補助事業を仕組むことができましたが、これも、リストラ、緊急雇用という社会全体の雇用問題の中、和歌山県や三重県の取組、両県知事の要請などを踏まえて、厚労族出身の小泉純一郎首相を味方にできたため。後から考えれば、ちょっと変わった発想をされる方だったからうまく仕組めたのかもしれません。

大変申し訳ない状況で恐縮ですが、国にお任せするのではなくて、角花様をはじめとした民間の方々の取組が隘路を切り開くことにつながるものと思います。

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