地域再生 伊佐裕・小柳雄平ブログ(その1)秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手

畏友、伊佐裕さんとのサプライチェーンの共同研究は、実に19年の永きにわたっています。伊佐さんが、早稲田大学を訪問されて、林業〜家作りサプライチェーン共同構築のお誘いを受けた2004年から、研究は始まったのです(参考資料2)。

伊佐さんの訪問を受けた時、当時、私が推進していた先端的な改革「建築市場改革」は、最盛期でした。全国に研究集団が拡大していたのです。でも、私は、大きな反省をしていました。改革を急ぎすぎている。先導集団が、先に進み過ぎている。多くの人は,ついてこれないと感じていました。このままでは崩壊すると、感じていたのです。そこで私は、伊佐さんとの共同研究では、「建築市場」の進みすぎていた姿を、お話しをするのは、やめました。

伊佐裕さんは育てられた推進者たちと、一歩一歩、進めてこられました。そして、いよいよ、期が熟しました。そこで昨年の秋、「伊佐さんの進めてこられた改革を、総まとめして、日本中の皆さんに発信して下さいませんか」と、お願いしたのです。

ここに、伊佐裕さんが、愛弟子(まなでし)の小柳雄平さんと2人で、まとめ上げてくださった、貴重な論文が出来上がったのです。これを御報告します。

 

林業再生・山村振興への一言(再出発)

 

2022年1月(№175)

 

椎野潤(新)ブログ(386) 伊佐裕・小柳雄平ブログ(その1)秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手 2022年1月21日

 

☆前書き

第1回目の発表は「秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手」と題したお話しです。

 

☆引用

秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手

文責 伊佐裕 小柳雄平

 

[秩父FOREST植樹祭]

2021年11月14日、60名以上の規模で「秩父FOREST」主催の第2回植樹祭を行いました。秩父FORESTは植樹活動を通して森と都市(消費者)を結ぶことを目的として2020年初頭に設立した団体です。

今回は地域工務店「伊佐ホームズ」で家づくりをしてくださったお客様、建設中のお客様を中心に都市部の方々、4歳から60代までの総勢60名を超える人々が参加し、家づくりのための木材を伐採した秩父市大滝の山林での植樹祭でした。

植樹ではスギを間伐した森に林学博士の指導のもとコナラやカエデを植え、木材を産む森林の恩恵とともに、生態系の維持や、獣害に悩む林業の実態など、様々なことを参加者の皆さまとともに知り学ぶことができました。

また家づくりの施主が木材生産の山主の実生活を知る場をつくることができ、住宅の木材を通した消費者と生産者、都市と山村の直接の交流のなかから、感動の共有も生まれました。

 

[お施主さんと山主の感動の共有]

「BtoBの連携(企業と企業の連携)」だけでは価値は生まれず、消費者との交流「BtoC」による共感があってこそ、経済的で持続的な価値がつくられます。そのためにも工務店などの需要者は、木を美しく表現し、木質文化を高めて消費者に届ける能力・技術を、高める必要があります。

さらに今回の植樹祭での直接消費者と山主が感動を共有する人と人との共鳴こそが、「文化」になるものと確信いたします。このような取り組みを継続し、日本人の森林に対する新しい(忘れられた)文化感を強くしていきたいと希います。

 

[森林環境を市民が自分事として学ぶインタープリテーション]

秩父FORESTの植樹祭では、その後秩父市ミューズパークに移り、去年の植樹祭の経過を観察しながら、インタープリテーション(注3)と呼ばれる手法で、森林環境を学術的でなく自分事として学ぶ場をつくりました。

子供たちがオオムラサキの幼虫を見つける場面もあり、会は楽しく、昆虫や動物と植物の関りや、また人と森との関係の在り方などを、それぞれ学び考えさせられました。発見の多い時間でした。前半の植樹活動と共に、森と都市を結ぶ有意義な植樹祭になりました。

 

[さまざまなかたちでの都市と山村の対話]

秩父FORESTは他に、総合商社と協同し、秩父市有林の一部を活用して都市部との交流を継続的にすすめる「企業の森」事業を、実行計画中です。また、産業能率大学との取組による、都市部商店街と秩父地場産業をむすぶ面的な活動をはじめ、さまざまなかたちで、都市と山村の対話に携わり実行して参ります。(参考資料1伊佐裕・小柳雄平論文を引用)。

 

☆おわりに

伊佐さんと小柳さんは、家を建てて住んでくれている家族の人達(お施主さん)と、この家を構成している中心的な素材、木材を育ててくれた山主さんと、一人一人握手して、感動を共有する仲間にしました。

山主さんは、小さな苗から、40〜50年かけて成木に育てあげた杉材が、美しい日本文化の象徴として、世界から評価されている伊佐ホームズの家の一部を構成しているのを見た時、凄く驚き喜ぶことでしょう。自分の林業の仕事に大きな誇りを持てるでしょう。今日、苗木を植えて、息子の代で成木になる息の長い仕事において、自分の生きた人生の意味を、再確認できるでしょう。

伊佐さんは、早くから、木材を山主さんから買うときに、買った木の伐採跡地への次世代苗木の育林費用を、前渡しで渡す決断をして実施していました(参考資料3)。ですから、伊佐さんは、山主さんとは、「今後長い間の育林を、お願いします」と、きっと、握手されていたことでしょう。

でも、今回、山主さんが握手するのは、お施主さんの家族なのです。ご主人だけでなく、奥様も娘さんも、男の子も、おじいさんも、おばあさんもです。山主さんのような、はるか未来に目を向けて、一日一日の仕事に励んでいる人、それも、大きな自然に包まれて生きている人と、心の深いところでつながると、「文化」の移転と交流が起きるのです。

この握手は、都会の家族の「文化」の心の幅と深さを変えるはずです。次世代において先導者になる人材は、このような「文化」の移転した少年・少女から育つだろうと私は考えています。一方、山林の山主家族の生き甲斐の高揚も、大きいものがあると思います。

(椎野 潤記)

 

(注1)インタープリテーション (Interpretation):単なる情報の提供でなく実体験や教材を通し、事物や事象の背後にある意味や関係を明らか にすることを目的とした教育活動。

 

参考資料

(1)伊佐裕 小柳雄平著:秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手、2022年1月8日。

(2)椎野潤著:顧客起点サプライチェーンマネジメント〜日本の産業と企業の混迷からの脱出 その道を拓く「建築市場」、2003年11月20日、流通研究社。

(3)椎野潤(続)ブログ(235)木材トレーサビリティで流通改革 原木価格を引き上げ森林再生に貢献(その1) 2020年8月4日

 

[付記]2022年1月21日。

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ:2022年1月18日のブログ、大型パネル事業が導く林業再生(その3)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3)]

 

[引用文]

大谷恵理様

 

今回はご自身のブログということで拝読させていただきました。

 

林業の職場の特徴、魅力は、まさに「自分の裁量で働き方を決められる」ことだと思います。つねに状況判断が求められますので、ひとりひとりが経営者です。そしてつねに結果がかえってきます。

佐伯森林組合は今も進化続けているとのことで、とても大事なことだと思います。自分の裁量で仕事をし、進化を続けるならば、仕事も楽しいと思います。

経理事務の方の活躍の話も、植物に絶妙なタイミングで水を与えれば生き返るように、能力を開花させる機会を与えれば自ずと進化する好例だと思います。

なんだか優勝するような野球チームみたいです。

 

酒井秀夫

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