大谷恵理ブログ「林業再生と山村振興]大型パネル事業が導く林業再生(その3)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3)書き切れなかった詳細エピソード

☆巻頭の一言

このブログは大谷恵理さんに、2021年12月に発信された「佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望」の続編を、執筆していただいたものです。

 

林業再生・山村振興への一言(再出発)

 

2022年1月(№174)

 

椎野潤(新)ブログ(385) 大型パネル事業が導く林業再生(その3)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3)書き切れなかった詳細エピソード 2022年1月18日

 

☆前書き

今日は「佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3)、書き切れなかった詳細エピソードについて」を、ご執筆いただきます。

 

☆引用

大谷恵理ブログ 大型パネル事業が導く林業再生(その3)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3)書き切れなかった詳細エピソード 2022年1月12日。

文責 大谷恵理 監修 塩地博文

 

2021年12月、2回に分けて大分県佐伯市の、佐伯森林組合の成長とその軌跡についてレポートしました。その際、書ききれなかった詳細やエピソードを、今回はご紹介したいと思います。

 

[再造林についいての捕捉]

まず、皆様が特に関心を持たれると思われる再造林についてです。全国ではウサギやシカなどの野生動物が増えすぎ、山に苗を植えてもすぐに食べられてしまう状況で、それが再造林を阻む大きな要因になっています。佐伯では、なぜ確実な再造林ができるのでしょうか。それは徹底した、適切な柵の設置と、スカートと呼ばれる、柵の外側に長く垂らした網の効果によるものです。この網はシカの足に絡まって柵を飛び越えるのを防ぎ、小動物が穴を掘って柵内に入ることも難しくするようです。費用も手間もかかりますが、佐伯ではこれを通常業務として行っているのです。

 

[山で働く魅力 自分の裁量で働き方を決められる]

造林に関わる人の中には、宮崎県から来ている若者も多いと聞きます。中には大企業の工場で働いていた人が、転職して山に入るケースもあるそうです。大きな理由は、自分の裁量で働き方を決められるという点でしょう。請負契約のため、雨の日は休み、夏の暑い時には日の出前に行って10時頃には降りる、といった働き方が可能です。苗が雑草に覆われて枯れてしまわないよう、数年は植えた人が下刈りという雑草の刈り払いも行うので、かなり体力のいるキツイ仕事ですが、見合った報酬と受け止められているのです。枯れた苗木は必ず植え直すのですから、しっかり根付くよう、植え方も丁寧になるのでしょう。

 

[杉の品種 アイラ20号、タノワカ、アオシマアラカワ、マアカ 飫肥杉の4品種]

九州以外では、杉と言えば杉で、その種類について語られる事はあまりありません。しかし、日田でも佐伯でも、九州では杉の品種が数多く、良く話題にのぼります。気温が高く土壌や水にも恵まれて成長が早いだけに、杉にも多種多様な品種が生まれ、選別して育てられているのです。佐伯では、その中でもアイラ20号、タノワカ、アオシマアラカワ、マアカという、飫肥杉の4品種を選んで植えています。それによって、伐採して木材にした時の、木肌の色や目が揃うようにしているのです。一見すると同じように見えても、木材は一本一本異なる色味や目の出方があり、それだと板を並べた時にバラバラな印象になってしまいますが、品種を絞ることで、近い色合いになりやすく、統一感・高級感を持たせることができるのです。

佐伯では年間75万本の苗を植えていますが、うち20万本が地域内の挿し木苗、5万本が自社生産で、30万本の供給を目指しています。全てを自前で賄うのは、病気や虫害などのリスク、原木取引上の都合もあるため、残りは今後も宮崎から買う方針とのことです。

 

[営業や事務の人達も生き生きと働いている 与えられている大きな裁量権]

佐伯森林組合では、営業や事務に係る人達も生き生きと働いています。山主さんから立ち木を買い付ける営業担当者は4人いて、各自が月に千万単位の仕入れを行っています。かなり大きな金額ですが、現場の課長に大きな裁量権を渡し、あまり細かい事は言わないと、流通部長の柳井氏は仰っていました。一定の現地調査をしても、木の良し悪しは最終的には伐ってみないとわかりません。時には見込み違いで損失を出したり、予想外の高値で売れたりと、様々な経験を積む事で見る目を養うしかないということでしょう。搬出が難しい場所の木は、多くの所有者さんからまとめて買い付け、一度に伐採できるようにする、といった工夫もしているそうです。

 

[経理事務を任されている地域の女性 エクセルの精緻な管理表を作成して日々の業務に生かす]

経理関係の事務を任されているのは主に地域の女性達です。もともと、森林組合というのは法律上の位置づけがかなり緩く、株式上場企業のような厳密な収支管理や監査などは必ずしも求められていないと聞いています。しかしそれでは、部門ごと、製品ごとの本当の収益がわからず、経営改善もできません。そんな状況を危惧した金融出身の方が、エクセルで作成した原価管理表を渡して使い方を教えたところ、女性達はその意味を理解してみるみる改良を重ねました。今ではその方でさえ一見して理解できないほど、精緻な管理表を作成し、日々の業務に生かしているそうです。

 

[地域の生き生きとした職場を作った人達 新たな組織改革]

佐伯森林組合の、様々な人がそれぞれの持ち場で生き生きと働く状況は、戸高組合長、今山参事、ウッドステーションの塩地社長をはじめとする多くの人々が、長く忍耐強い働きかけをとおして培ってきたものです。そしてさらに重要なのは、今も進化を続けているということです。

組合では最近、大きく言えば山と工場に分かれていた組織を、流通部と事業部という、より横断的な部門に再編しました。山側で働く人も、伐られた木が工場でどのように製品化されるのかを意識しやすい組織にしたのです。

大型パネルの生産工場も、実績作りの段階を超え、より適正な利益を追求できるよう、建築側の情報の取得・検討を始めているそうです。

佐伯スピリットは今後も更に磨かれ、輝きを増して、日本中の森林のあるべき姿を照らす光になっていくことでしょう。私はそれを全国に広げる事業を、自ら手掛けていきたいと思います。 (参考資料2、大谷恵理)。

 

☆まとめ

大谷プログ(その3)の原稿が送付されてきた時、最初に探したのは、最も会いたい人の近況でした。それは、私が2022年の初ブログに書いた、満天の夜に輝く金の星 孤独な先導者 佐伯広域森林組合の柳井流通部長です。

この人は、まさに夜空に輝く金の星、次世代林業の先導者なのです。この人の人生は、サプライチェーンのような人です。サプライチェーンの運営者が、この人の生涯そのものなのです。

柳井部長は、仕事のサプライチェーンの切れたところがあれば、すぐつなぎます。継ぎ目に重なりがあれば、すぐ除きます。サプライチェーンが常に良好な姿を維持するように保ちます。

 

大谷さんは、今日のブログでは、以下のように書いていました。「木を買い付ける営業担当者は4人いて、各自が月に千万単位の仕入れを行っています。大きな金額ですが、現場の課長に大きな裁量権を渡し、細かい事は言わないのです。」

また、去年の年末の大谷ブログ(その2、参考資料4)では、以下のように書いています。「流通部長を務める柳井氏は、自らも苗木生産に挑戦しました。そして驚いた事に、「5年間ずっと失敗し続けた」と事も無げに、微笑みながら話されます。そうやって積み重ねたノウハウが実を結び、今では20人の組合員が、年間約20万本のコンテナ苗を生産するまでになりました。」

 

普通の管理者なら、こんなに失敗を重ねたら、「やっぱり命令・指示をしないと駄目だ」と苦虫を噛んだような顔をして思うでしょう。でも、柳井さんは笑っているのです。そして、一層、権限を委譲するのです。

この先導者が、九州の一角に、次世代社会で出現することが期待されている企業を、先行的に出現させました。このような人が、各県に一人ずつ出てくれば、日本の未来にも、明るい光が射してくるでしょう。次世代工場を5年間に1000工場作ると言っている、大谷恵理さんの出現で、私の初ブログの高い目標は、俄かに期待が高まりました。

 

私は、今、日本が、世界の先進国から、どんどん、遅れ始めていることに、強い危機感を持っています。でも、この年末年始は、日本のスタートアップが、俄かに活性化してきました。このスタートアップは、コロナの悪魔に背中を押されて走り始めました。

このブログで大谷さんは、経理事務を任された地元の女性たちのことを以下のように書いています。

「森林組合では、厳密な収支管理や監査などは求められていません。でもそれでは、部門ごと、製品ごとの本当の収益がわからず、経営改善もできないのです。そんな状況を危惧した金融出身の方が、エクセルで作成した原価管理表を渡して使い方を教えました。すると女性達は、その意味を理解してみるみる改良を重ねました。今ではその方でさえ一見して理解できないほど、精緻な管理表を作成し、日々の業務に生かしているのです」。

 

この女性たちに、エクセル管理表を渡した人は、私が待望していた林業スタートアップです。さらに、それを理解し、見る見る改良を重ねた女性たちも、立派なスタートアップなのです。さらに、佐伯広域森林組合こそ、日本を代表する林業スタートアップと言えるでしょう。

また、次回のブログに登場する伊佐裕さん、小柳雄平さんは、住宅を発注してくれる「お施主さん(コンシューマーの一人)」も、スタートアップにしています。日本の林業創生・山村振興の改革は、スタートアップの総合力によって成熟します。(参考資料2、3を参照引用して記述)。(椎野 潤記)

 

参考資料

(1)大谷恵理著:大型パネル事業が導く林業再生(その2)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2) 佐伯広域森林組合に学ぶこと 2021年12月3日。

(2)大谷恵理著:大型パネル事業が導く林業再生(その3)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3) 佐伯広域森林組合に学ぶこと 書き切れなかった詳細エピソード 2022年1月12日。

(3)椎野潤(続)ブログ(376) 大型パネル事業が導く林業再生(その1)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(1) 2021年12月14日

(4)椎野潤(続)ブログ(377) 大型パネル事業が導く林業再生(その2)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(2) 2021年12月17日

 

[付記]2022年1月18日。

 

 

 

[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]

[指導を受けたブログ:2022年1月14日のブログ、各県の若年労働者数の増加と県民一人あたりの所得の拡大の関係の分析]

 

[引用文]

大谷恵理様

 

ブログ配信ありがとうございます。

 

興味深い分析です。若人の就職人数が増えて1人当たり所得が増えている県は、若人を養える産業や仕事があるのではと思います。

山梨は、甲府ー新宿が特急で1.5時間、普通で2.5時間と非常に近いです。(17)位から(24)位までは、農林水産業の資源が豊富ですので、たしかにこれから飛躍的発展をする可能性があります。東京、愛知は労働環境がよくないのでしょうか。札幌、福岡は労働生産性が高いのかもしれません。これからAIが発達すれば、この傾向は強まるかもしれません。先月博多に行きましたが、活気がありました。

 

酒井秀夫

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です