□ 椎野潤ブログ(金融研究会第18回) 木材先物取引について(3)
文責:角花菊次郎
前回は、木材取引における価格変動リスクのヘッジとヘッジを成立させる投機の役割について考えてきました。今回はヘッジと投機のせめぎ合いの中で形成された先物価格の役割と、先物取引や先物取引所の機能について考えてみたいと思います。
世界の商品先物取引所には現物を扱う業者や投機家だけでなく、大きな資金を動かす機関投資家や様々なファンド資金も参加しています。機関投資家などは世界的な商品需給や経済状況などのファンダメンタルズ、天候、国際政治状況などの外部要因を踏まえ、市場心理なども読み取って投資を行います。したがって、商品先物取引所で形成される先物価格には様々な価格変動要因が織り込まれていると言え、そこでは適正だと誰しもが受け入れることができる価格、「公正価格」が形成されると考えられています。
公正価格は、中間材や最終商品などその商品のサプライチェーン各段階で取引される価格の理論的な基準となり、需給調整のタイムラグを短縮化し、生産・販売計画を立てる際の指標となります。
一次産品や素材を取引する商品先物取引所には、生産者や流通業者、需要家などがそれぞれの業界情報を持ち寄りながらヘッジ目的で参加するだけでなく、投機目的の投機家が景気動向、他の投機資産との関連や為替状況などを踏まえて違った立場から参加するからこそ、そこで形成される価格は公正価格となるのです。そしてその価格は、当該商品の生産・販売にかかわる関係者誰もが知りたい「先々の価格」が指標として常に公表されるのです。
また、公正価格を公正ならしむ要素として、商品先物取引所が厳格なルールの下に運営されている公設の取引所だということも指摘しておきたい点です。わが国の商品先物取引所は自治が建前の組織とはいえ、経産省、農水省や金融庁といった行政の監督下にあり、取引所への参加資格、取引の担保となる証拠金の預託制度、現物を受け取る「受渡決済」のほか現物の受け渡しをせずに当初行った取引の反対取引(反対売買)でも決済できる「差額決済」制度など、一定の信用力が付与された中で先物取引への参加を促す仕組みが構築されているのです。
ここで商品先物取引の主な機能について改めて確認すると、以下の5つとなります。
① 現物の受渡を伴う売買
② 価格変動リスクのヘッジ
③ 公正な価格の形成
④ 先行価格指標の提供(先々の価格を見通せること)
⑤ 投機としての資金運用機会の提供
わが国では、堂島取引所において貴金属(金、銀、白金)、農産物(コメ、とうもろこし、米国産大豆、小豆)、砂糖(粗糖)などが、東京商品取引所においてエネルギー(ガソリン、灯油、軽油、原油、電力、液化天然ガス)などの先物取引がされています。しかし、残念ながら今のところ木材の先物取引が行われる気配はありません。いや、正確に言うとわが国でも20年以上前に合板先物取引が取引所に上場されかけたことがありましたが、諸事情により立ち消えとなったようです。この合板に関しては今日でも先物取引に対するニーズが強いのではないかと思います。
木材価格の上下に一喜一憂すること自体は変わらないのかもしれません。でも赤字を回避する手段があるのなら、その可能性を追求することができるのなら、業界一丸となって、前向きに、木材先物取引の実現を真剣に議論してみてはいかがでしょうか。
以 上
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
第1回では、木材価格の乱高下への対策として、将来のある時点(期日)である商品を取引する現時点で決めた価格で売買することを約する先物取引について説明していただき、その木材先物市場の創設を検討する時期に来ているのではとの提唱でした。
今回、先物価格には様々な価格変動要因が織り込まれており、公正価格が形成されているという解説です。公正価格は、その商品のサプライチェーン各段階で取引される価格の理論的な基準となり、需給調整のタイムラグを短縮化し、生産・販売計画を立てる際の指標となるとのことです。様々なステークホルダーが参加していることから、そこで形成される価格が公正価格となりえるとのことです。一定の信用力が付与されている仕組みが構築されているので、先物取引へ参加することができます。
先物取引はリスクヘッジになりますが、想定外の事態に対しては、業界全体の強靱な体力をつける必要があるかと思います。持続的森林経営計画において、気候変動や大規模な自然災害に対するセーフティネットをどうするかが現在大きな研究テーマになっています。ビッグデータを活用した確率に基づいていくつかのシナリオを想定する手法が開発されたりしていますが、実際の木材取引において応用していくことができれば、社会も安定していくのではと思います。