□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第42回) 再造林が強める林業の社会的包摂力
株式会社森林連結経営 文月恵理
再造林、それは林業が苗を植えてから収穫するまでの一つのサイクルを終え、新たな命の循環を歩みだす初期段階だ。日本の多くの地域で、人工林が利用に十分な成長を遂げているのに、木材価格の低迷や再造林の困難さから、主伐をせずに間伐だけが継続されている。これは課題の先送りではないかと、当事者もわかっていながら、中々進まないものらしい。
佐伯広域森林組合では、樹木の成長が早いため、間伐だけでは到底追いつかないと、多額の投資をして製材工場を作るというリスクを冒してまで、主伐・再造林を推し進めてきた。組合が伐採した土地だけでなく、管轄内で素材生産事業者が伐採した土地までも、全て組合が再造林を実施している。最近ではその愚直な取り組みが評価され、ある住宅用建築部材メーカーが、再造林のコストを上乗せした価格で製材品の買い取りをするという「再造林協定」を締結した。その佐伯で行われている再造林を詳しく見ていくと、これまでの常識の枠を超えた、多様な人々がそれを支えていることがわかってきた。
一つは、再造林の担い手である造林従事者だ。隣県の工場務めを辞めて山に入った人、保険の代理店から転身した人、中には10年も自宅に引き籠っていたという人が、今では年収一千万円の親方として山主の信頼を得ていたりする。彼によると、体の使い方や機器の扱いといった技術を身に付ければ、装備の進歩もあり、下刈りも決してキツイ作業ではないそうだ。夏は朝5時に現場に行き、気温の上がる11時前には一日の仕事を終える。自分達が植えた場所は5年間継続して世話をし、きちんとした山になるよう、枯死した苗の補植もする。育っていく若木の成長を助けるのは、成果が目に見える、遣り甲斐のある仕事なのだろう。造林に関わる人の数は、130人から、ここ数年で180人にまで増えたそうだ。
もう一つは、苗木生産で障がい者の雇用を生んでいること。コンテナ苗で穂を挿す筒の部分は、波型のポリエチレン製シートに培養土を載せ、押し固めながら巻いて作るが、健常者は30分もやればウンザリする単純作業だ。障がい者の方々はこれを黙々と、人によっては1日に4~5時間続けることができる。もちろん、障がいの程度によって作業のスピードは異なるが、慣れれば均質な製品を作れるそうだ。
障害の程度の軽い人達は、育った苗木をマニュアルに沿って選別し、ポリエチレンのシートを外して10本ごとにラップで包み、山行き苗として成形する仕事をしている。どちらも組合が安定した価格で買い取っているので、障がい者雇用施設からみれば利益率の高い、ありがたい仕事のようだ。何よりも、土に触れる、苗木を送り出すという仕事の尊さが、障がいを持つ方々の魂と響き合っているように、私には思えた。
再造林には、効率・スピード・愛想といった物差しで切り捨てられがちな人々が、それぞれの個性や能力に見合った仕事を見つけられる可能性が潜んでいる。経済的に成り立たないという理由で主伐を避けるよりも、再造林をテコにして雇用を生み、社会の包摂力を高めることが、地域の暮らしの継続に繋がるのではないだろうか。佐伯の事例に、そんな光を見た気がした。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
森林所有者の意向にとらわれることなく(森林所有者の信頼を得て、といった方が良いか)、林業経営の当たり前のこととして、伐採後の再造林の施業を行っている佐伯広域森林組合のあり様はとても素晴らしいと思います。経営権が森林組合になくとも、信頼関係に基づいて、森林組合が必要と考える施業をしっかりやり切っているのは、コスト意識と加工販売を通じて戦略的に林業収益をあげられる体質にしてきたからです。
コスト意識と言っても、安直に、働く人の給与・所得を削ってコストを下げるという自爆的な取組ではなく、働き手の意欲と努力で労働生産性を上げることによりコストを下げることに成功しているのです。
補助金依存体質が染みついた林業界では、造林の労働生産性が上がってコストが下がると補助金単価も下げられてしまうので、労働生産性を上げる必要はないという議論も起こるのです。しかし、労働生産性を上げないと賃金が上がらないのは自明の理です。そこしか、賃金アップの原資は出てこないのです。労働生産性アップで得た原資を賃金アップ、事業量のアップ、所有者の収支の改善の三方に振り向けていく取組が求められており、佐伯広域の取組はその先導者たるものなのです。
政策的に補助金予算が増えない我が国の財政事情の中で、労賃を含む事業経費が高騰すれば事業量は減らすことになってしまいます。これから、再造林が拡大して、事業量を増やさなければならないときに、補助金が十分もらえないから植えられませんというのがこれまでの補助金依存の林業界の考え方でしたが、労働生産性を上げて、同じ補助金でも賃金を上げて事業量も増やしてというようになっていかなければならないのです。そうでなければ、今後、林業経営の持続性を社会に認知してもらうのは難しいでしょう。
裏返して、障がい者の雇用は労働生産性からすれば低下するかもしれません。その分、賃金は抑制されるかもしれませんが、その場合でも、そこから生まれる障がい者の雇用という側面を見逃すことはできません。障がい者が社会において果たせる役割を林業の中で可能なところに見出すことは、地域社会を保つためにも重要ですし、人手不足の中、林業経営を維持していくことにも貢献するでしょう。