丸井 売らない店に変身 小売業から情報の収集・販売業へ転身 店頭は消費データを得る場に

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2021年4月(№98)

 

□ 椎野潤(続)ブログ(309) 丸井 売らない店に変身 小売業から情報の収集・販売業へ転身 店頭は消費データを得る場に 2021年4月27日。

 

☆前書き

丸井は「モノを売らない店」へ、本気で転換しようとしています。その発想に徹底している米国のスタートアップ、ベータ(b8ta、注2)と提携し、企業ぐるみ発想や行動を大転換しようとしています。その転身は、実に地道(ぢみち)で実践的です。コロナの襲来で、その実現が、すぐ眼の先に見えてきた「日本の次世代小売産業」の先導者に、確実になれると思われます。このブログは、2021年3月11日の日本経済新聞を、参照・引用して書きました。

 

☆本文

丸井は、2年前から、通常の物件販売比率を減らし、飲食店やサービス店を増やしてきました。2019年3月期には70%あった物販テナントは、現在では59%までに減っています。今後、これを進め、2024年3月期には、40%にまで引き下げる計画です。しかも、ここで残る40%の物販テナントも、物を売る場ではなく、消費者の行動データを得る場へと、舵を切る予定です。

近年、世界の変化は、物凄く早いのです。丸井は、この早い変化の中で、小売業として、どのようにして生き残って行くのかを、真剣に考えてきました。他の百貨店、大型小売店に比べて、その対応は迅速で、方向付けは、とても明確です。

その具体的な対応策として、顧客の動きを徹底的に計測することを実践してきました。丸井は、この次世代小売業への進化のために、学ぶべき先導者として、米国のスタートアップで、現在、急成長中のベータ(b8ta、注2)を、タッグを組む相手として選びました。

ベータ(b8ta)は、2015年に、米サンフランシスコで創業した企業で、今や世界で「小売り業の革命児」と注目されている存在です。ベータの発想は、これまでの小売店舗とは著しく異なります。

ベータは、店舗の棚を、60×40の区画に区切り、これを、様々なブランド企業に、サブスクリスション(定額貸し付け、注3)します。

すなわち、出店企業側は、一定額の出品料を支払えば、ベータに従業員を手配してもらえます。トレーニングもしてもらえます。さらに、シフト管理(注4)、在庫管理、物流管理、販売時点情報管理などの多様な管理も、実施してもらえます。ですから、ベータ(b8ta)は「テストができる小売店」なのです。

このようなベータ(b8ta)と組めば、出店企業は、来店客の性別、年齢データや、店内における客の行動データを、2種類のカメラで、収集してもらうことができるのです。また、このデータを使って、ソフトプログラムによる行動分析も出来ます。さらに、画期的な新商品開発ができ、それにより、テストマーケッティングをすることも出来るのです。

一方、店を訪れる顧客たちも、様々なブランドの魅力的な最新製品を、発見でき体験でき、自分が本当に欲しかったものを購入することが出来るのです。すなむち、ベータ(b8ta)の店は、賢い顧客を量産する装置なのです。

そのベータが2020年に、日本へ上陸しました。日本では丸井が、上陸先の第一号店でした。ベータの海外進出に関しては、日本は、ドバイに次いで二番目でした。「なぜ、日本上陸が、そんなに早かったのか」と、問われたベータの担当者は、「日本人の見学者が一番多かったからだ」と答えています。丸井の人達は、多分、大勢、見学に行ったのでしょう。

記事には、新宿丸井の1階に入居する最新家電などの体験施設「ベータ(b8ta)」を紹介しています。天井に据えつけた人工知能(AI、注4)登載カメラが、来店客の行動を追い、商品の前に5秒以上滞在した人の数、スタッフが商品デモを行った回数、デモから販売に至った割合などを記録します。こうしたデータを出品企業に還元して、商品開発に役立てるのです。

有楽町マルイ(東京・千代田)には、オーダースーツを手掛ける「ファブリックトウキョウ」が入居しています。ここは交流サイト(SNS、注5)やネット通販を通じて、顧客と直接つながるダイレクト・ツウ・コンシューマ(最終顧客への直接販売、注1、コメント欄参照)の人気ブランドです。

新宿マルイアネックス(東京・新宿)にある電子ペン大手、ワコムの直営店。ここは、丸井の従業員が運営を受託しているのですが、ショールームに徹し、商品は一切、売っていません。店員は書き心地や不満を聞き出してデータ化し、ペン先などの商品開発に生かしています。

 

☆まとめ

丸井の従業員は、これらの店に出向し、データ収集を、自ら身をもって実施し、2024年3月期での丸井の全売り上げの60%を占める「物販テナント」で必須となる、強力な消費者情報の収集体制の構築へ向けて、全力で準備しているのです。

丸井のやっている「売らない店」への転身は、実に地道(ぢみち)で実戦的です。徹底しています。丸井は、日本の来たるべき小売りの新時代への脱皮において、確実に牽引者になると思います。

日本で、いよいよ、実現してくる小売り新時代のダイレクト・ツウ・コンシューマ(注1、コメント欄参照)では、丸井が、各企業の見本になるでしょう。先進スタートアップに出向して、先進技術を体得し、自社にその技術を定着させていく、丸井の従業員の働き方の姿は、小売り各社の従業員の、貴重な未来サンプルになると、私は思います。(参考資料1、2021年3月16日の日本経済新聞(山田健一)を参照して記述)

なお、この「売らない店」の事業の収益は、物品の販売による収益から、フィンテック(注6)による金融システムの収益に、完全に移行していきます。これについては、別の機会に丁寧に述べます。

 

(注1)ダイレクト・ツウ・コンシューマ(D2C Direct to Consumer):製造から販売までを垂直統合したビジネスモデルのうち、実店舗を介さず、インターネット上の自社ECサイトでのみで販売するモデル。インスタグラムなどのSNSを通じた消費者(コンシューマー)と生産者の情報交換が主力になる。

(注2)ベータ(b8ta):米国のD2Cの代表的なスタートアップ。2015年、米国、サンフランシスコで創業。以後、急拡大。2020年、日本に上陸。

(注3)サブスクリプション(subscription):subscriptionという英単語から派生し、サービスや製品を利用した一定の期間や利用量に対して料金を支払う課金提供型のビジネスモデル。

(注4)シフト管理:多様化したワークスタイルに沿いながら、チームとして結果を出せる勤務体制を維持・管理する管理。

(注5)人工知能(AI:artificial intelligence):「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語。

(注6)交流サイト(SNS:Social Networking Service):人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。

(注7)フィンテック(fintech):金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語。ICTを駆使した革新的(innovative)、あるいは破壊的(disruptive)な金融商品・金融サービスの潮流などの意味で使用される 。

(注8)コンシューマー(consumer):商品やサービスの最終使用者や、商品・サービスを購入する可能性のあるすべての人を指す。

(注9)IoT(Internet of Things):様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組み。

(注10)インスタグラム:写真に特化したSNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。画像  や短時間動画を共有する、無料のスマートフォン・アプリとそれを用いたサービスのこと。

 

参考資料

(1)日本経済新聞、2021年3月11日。

(2)椎野潤(続)ブログ(251) ダイレクト・ツウ・コンシューマー  一人一人の本当に欲しい花卉を供給する産地直販 2020年10月3日。

 

[付記]2021年4月27日。

 

[コメント]ダイレクト・ツウ・コンシューマ(D2C)の既往ブログ

2020年10月3日のブログ(参考資料2)は、以下のように書いていました。

「次世代産業を担うものの一つとして注目されているダイレクト・ツウ・コンシューマ(D2C、注2)には、二つの重点があります。一つ目は、製造から販売までが、垂直統合したビジネスモデルであることです。その名が示すように、生産者とコンシューマ(注8)がダイレクトに繋がっているのです。途中に卸売り業者も、市場(いちば)も、競り市も、小売店もありません。ですから、流通費は、劇的に安いのです。

二つ目は、顧客と生産者本人との情報が密着しており、顧客一人一人の本当の希望や夢が、生産者に個々に伝えられることです。

この事業モデルでは、事業を拡大するエネルギーは、顧客の熱い夢なのです。ここでは欲しがる買いたがる人たちのエネルギーの総和が力です。この事業の鍵は、需要を予測して事業戦略を立てるのではなく、顧客によって需要を、いかに拡大させるかにあるのです。ですから、人口減少のもとでGDPを拡大し続けたい社会では、これは最重要なモデルなのです。

これが実現できたのは、近年の人工知能(AI、注5)、全てがつながるIoT(注9)の急速な進化と、これを用いて市場(しじょう)のファンを熱狂させるSNS(注6)のインスタグラム(注10)とスマホアプリ、これらを開発して立ち上げる、多数の熱狂的なスタートアップ達が登場したからです。(参考資料2から引用)

このブログは、静岡県牧之原市でガーベラを育てている山本ゆかりさんが、コロナで波に乗り、ダイレクト・ツウ・コンシューマ(D2C、注2)を実現した事例を紹介したものです。

なお、ここでは山本ゆかりさんが、ガーベラを育てて、比較的少人数の顧客の希望を充足させていたことを、このブログの丸井は、大勢の顧客に対して、夥しく多品種の商品の販売を、ネット通販で、実現しようとしています。人工知能(注5)登載ロボットを使って、これを実現するために、大規模店舗に集まる顧客から、ロボットに読ませるデータを、収集しているのです。こう考えると、丸井が、いかに大変なことを実現しようとしているかが、良くわかるでしょう。

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