スマート林業の人材を育てる

椎野潤ブログ(加藤研究会第七回)  スマート林業の人材を育てる

 

新年度の4月になりました。新入学生やフレッシュマンが新たな1年をスタートさせる月です。ビジネスの経営資源で、ヒト、モノ、カネ、情報は重要と言われています。最も重要なヒトの人材育成は大学の大きな役割です。2002年4月に信州大学に赴任して、学生に森林計測と森林計画学、リモートセンシング、GIS、森林情報学、そしてレーザ計測やドローンのスマート林業の講義と実習を教えるようになって22年が経ちました。令和4年度に卒業した学生は修士2名と学士2名で、全員がスマート林業の研究に取り組み、修士は民間コンサルと大学発ベンチャーの精密林業計測、学士は連携するフィンランドと他大学の大学院に進学し、周囲からも認められる優秀な人材に育ちました(添付)。活躍が楽しみです。

大学教師は親御さんから大切なお子さんを預かり、講義を通じて研究室に所属する学士を2年間、院生を4年間、人を育てる難しさと喜びを経験しながら、研究活動を通じて就職という人生の進路と岐路に立ち合います。地域で求められるスマート林業の人材育成の参考になれば幸いです。

 

☆教師の器は徐々に大きくしていきます

赴任当時は、学生の多様な要望を受け入れる心のゆとりが足りませんでした。教師であれば誰でも優秀で素直な学生に研究室に来てほしいと思います。講義では熱く自己研究の持論を述べて研究の面白さを語りましたが、学生の立場でなく自己研究の自惚れと自信過剰で優秀な学生からは敬遠されました。一方で何処の研究室からも敬遠されがちな個性の強い変わり者の学生が専攻してくれました。妻からも「教師の貴方が変わっているから学生の変人も多く集まるのよ」と言われ、妙に納得したものです。手のかかる変人同士で、森林科学で人がやらない研究、リモートセンシング、レーザセンシング、プログラム開発に悪戦苦闘し、基盤や成果が見え始めるとドローンなど一芸に秀でた学生たちが集まり、スマート林業の素晴らしいチームができあがりました。いつのまにかどんな学生でも「いらっしゃい、Welcome!」になりました。

 

☆スマート林業の講義

3年生の講義「森林情報学」の前半を「森林リモートセンシング-基礎から応用まで- 第4版、J-FIC」加藤編著のテキスト輪読とエッセンス紹介、後半をフィンランド、ニュージーランド、カナダ、アメリカのレーザ計測、海外スマート林業の動向、スマート精密林業「長野モデル」、基調講演の要約、国際学会や海外訪問の現地写真からビデオ画像作成、YouTubeで見どころを紹介しています。授業準備に時間を要しますが、自己研究の宣伝から学生が学びたい、知りたい意欲を増す講義に変えていくことで授業評価も上がりました。

 

☆卒業論文テーマ

当初苦労したのが学生の卒論テーマです。自分で決めている学生は少ないので、こちらで学生が興味を持てる内容で複数テーマを用意します。テーマ決めで重要なのが現場や地域からの生の声です。今の課題は何なのか、中部森林管理局と森林管理署、長野県林務部、北信州森林組合、市町村、椎野塾事務局のみなさまからトピックやテーマを提供いただき、学生たちは背景と課題解決に向けたディシカッションで研究テーマとして考え始め、自分のやるべきことが見えてきます。現地フィールドの提供も受けて、社会の常識も含め研究者の卵として育っていきます。卒論テーマは修士論文でさらに研究が深堀されます。

 

☆学習する機会と場を与えて鍛える

研究室は学会発表をノルマにしています。中部森林学会は10月、日本森林学会は翌年の3月下旬です。学会発表は、4月から卒業研究をスタートする4年生にとってはタイトな厳しいノルマです。研究室ゼミで厳しく鍛えます。初めて学会発表する学生は緊張のためシドロモドロで、会場からの質問にも満足に答えることができません。場を踏むことで研究の課題も見えて、改善するために自発的に研究遂行ができるようになり、自信をつけていきます。学会は研究人材を育てる貴重な場です。学生には研究室にこもらずに、外部の厳しい場を踏ませることが必要です。研究テーマを独自に掘り下げて、独り立ちして学会等で自分の考えや技術を堂々と発表する姿に指導する喜びを感じます。

 

☆スマート林業の人を育てる

自分がそうだったように、クラブ活動や趣味、アルバイトに熱心で学習目標を見失っていた学生が、卒業論文作成をきっかけに、機会と場を経て目覚め、自立して伸びていき、素晴らしいスマート林業の人材に変わっていく様を何度も経験してきました。育てるのは教師、研究室の先輩(院生)、産学官連携コンソーシアム、現場のみなさんたちとのチームワークです。コアとなる研究室のスマート林業のチームづくりが重要で、ここが人材育成の肝だと思います。

 

令和4年度に卒業した修士2名と学士2名は全員がスマート林業の研究に取組み、周囲からも認められる優秀な人材に育ちました。皆様にお礼申しあげます。

 

まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

3月、4月は卒業式、入学式の季節ですが、今回は加藤先生の研究室の専攻生が巣立つまでの人材育成のお話です。

学生は好きなこと、やりたいことをするために入学したはずですが、いざ入学すると青春を謳歌したい一方で、今度は迷いや悩みが出てきます。与えられたことだけを学んできたそれまでとちがって、今度は卒業論文という未知の学問領域に取り組むわけですから、学生本人も指導する先生も大変です。個性の強い変わり者は秘めた力を持っています。その集団になると化学反応が起きてエネルギーが生まれます。その好例がWBC侍Jでしょう。研究は平坦な道ばかりではありませんから、成し遂げたときの喜びも格別と思います。卒業後は、海外留学で視野を広げたり、地元の産業界と結びついたりして社会貢献できれば、後輩もついてくるでしょう。卒業生のどんな未来が拓けていくのか、今後のご活躍を祈念いたします。

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