山村新興は コロナ以降の経済再建で 最重要(その2)

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

□ 今日の一言

林業再生・山村振興への一言を再開します。その第2号です。ふるさとテレワークとワーケーションにつて書きます。

 

林業再生・山村振興への一言(再開)

 

2020年4月(№2)

 

□ 再開ブログ(002)ふるさとテレワークとワーケーション

2020年4月10日。

 

☆はじめに

日本経済新聞の2020年4月5日の朝刊(参考資料1、注1)に、小さい記事ですが、重要な記述を見付けました。米グーグルが、スマートフォンなどを通じて集めた位置情報を活用して、新型コロナ感染拡大を受けた、各国の外出制限の取り組みを分析したのです。普段と比べた職場にくる動きについては、日本は僅か9%減で、米国(36%減)やイタリア(63%減)との外出自粛への対応の差が浮き彫りになりました(参考資料1)。日本人は、国の要請を受けて街に出歩くのは自粛していましたが、このグーグルの発表によれば、多くの社員はこの頃は、会社に行っていたことになります。テレワークも、あまり使えていなかったということになるのでしょうか。本当の状態が良くわかりませんが、凄く驚きました。(なお、これは3月29日のデータのようです)

 

この危機を、まず、乗り越えねばなりません。でも、乗り越えた後、どう動くかも重要です。今、国民に求めている外出自粛とテレワークでの自宅等での勤務は、危機を乗り越えた後の復興以降でも極めて重要です。世界各国が等しく、大きな危機に落ちたのですから、復興時に見事に回復した国と、遅れた国では、国力に大差がつくでしょう。

日本はテレワークについては、早くから力を入れていたのです。大分実績があるはずです。でも、それは表面的な実績で、中身がある本当の実績には、なっていなかったのでしょうか。私は、その点に注目して、ここで「一言」を書きます。大勢で一生懸命やってきたはずの「ふるさとテレワーク」をとりあげます。

 

☆本文

 

[ふるさとテレワークとは]

「ふるさとテレワーク」とは、地方のサテライトオフィス内で、テレワークにより、都市の仕事を実施する働き方のことです。ふるさとテレワークの推進により、都市部から地方への人や仕事の流れを創出し、地方創生に貢献することを目指します。さらに、地方における時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方を促進し、働き方改革を積極推進します。

2015年から、ふるさとテレワークの拠点形成が進み、2018年までに、下記に示す全国55市町村で拠点が整備されました。

 

[テレワーク拠点整備の実績]

2015年

北海道北見市/斜里町、別海町、岩手県大船渡市、山形県高島町、福島県会津若松市、群馬県高崎市、長野県塩尻市/富士見町/王滝村、松本市、京都府京丹後市、奈良県東吉野村、和歌山県白浜町、徳島県鳴門市、福岡県糸島市、佐賀県鳥栖市、沖縄県竹富町(15カ所)

 

2016年

北海道美唄市、ニセコ町、岩手県遠野市、群馬県みなかみ町、千葉県旭市、新潟県上越市、富山県高岡市、山梨県甲府市、長野県松本市/塩尻市、駒ヶ根市、岐阜県郡上市、奈良県三郷市、和歌山県白浜町、京都府南丹市、兵庫県丹波市、徳島県那賀町 、高知県土佐町、福岡県田川市、糸島市、長崎県壱岐市、南島原市、熊本県熊本市(22カ所)

 

2017年

青森県青森市/弘前市、宮城県気仙沼市、福島県田村市、群馬県太田市、長野県白馬村、木曽町、千葉県勝浦市、愛知県豊田市、島根県川本町、岡山県倉敷市、宮崎県椎葉村(11カ所)、(参考資料5から引用)

 

この拠点の選定は、その地域で重要なところ、立地的に孤立しそうなところを網羅しており,とても適切です。日本各地の市町村が、地元の存続をかけて熱意をもって参加しているのが,見て取れます。和歌山県白浜町が、唯一2年続けて選ばれています。先進的で熱意をもち、リーダーシップがあったものと思われます。

 

[ふるさとテレワークの目指す目的]

ふるさとテレワークが目指している目的は、大きくみると以下の3つです。

都市部の企業従業員と家族を地域に移住させる。

移住した企業従業員を地域住民として活動させる。

都市部から移住した従業員の所属する企業に、地域で活動させる。

 

[ふるさとテレワークの実施例]

岩手県遠野市の例

岩手県遠野市は、市内の廃校になった淵中学校の教室を利して、サテライトオフィス(注3)やコワーキングスペース(注4)を設置。遠野市や出張中の人など、様々な人達が仕事場として利できるように整備しました。さらに、通信環境へ極力ストレスを感じずに、テレワークを利できるように、ケーブルテレビ経由だった通信設備を光回線に切り替えました。

サテライトオフィスは、遠野市と連携した富士ゼロックスがテレワークオフィス、セキュリティルームとしての使用をしています。また、遠野市だけでなく、出張中や帰省中の人々の仕事場としても利しています。

遠野市は2014年年4月に、富士ゼロックスと協働で行う地域振興の活動として「遠野みらい創りカレッジ」を開校しました。そして、その管理組織として2016年4月に「(社)遠野みらい創りカレッジ」を立ち上げ、カレッジのプログラムを実施しています。その中でテレワークを体験して、富士ゼロックスの人達と地域の人達、および関心を持って集まった人達の協働による仕事の素晴らしさを、内外に伝えています。

ここに参加している人は、初年度の2016年は60人でしたが、2017年以降は、毎年840人程度おり、2019年までに2600人に達しています。このために、富士ゼロックスは、社員1名を遠野市に移住させ、もう1名を長期派遣しています。

 

ここで重要なのは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者である「関係人口(参考資料8)」に着目していることです。

「定住人口」「交流人口」「関係人口」が、一体となって仕事を産み出し、これを事業に拡大しています。ここでは、単に話しあっているのではないのです。地域の人達と都市の人達とその他の「関係人口」が、一緒に考えて新事業や新商品を産み出しているのです。これは結果としては地域創生ですが、都市の参加者(参加企業及び個人)も関係人口の側も、各地のニーズと発想を取り入れて成長しているのです。

この関係人口の中には、「地域に関心を持っている人」も「まだ持っていない人」もいますが、先に述べた「テレワーク拠点」の設置をすませている55の地域は、皆、凄い関心を持っています。ですから、この人達が「関係人口」として参加するこの集団は、きっと凄いものに成長するに違いありません。(参考資料6、7)

 

この「ふるさとテレワーク」は、凄いのです。しかし、都市や地域の人達全員が、テレワークの達人に、すぐなるのは無理だったのです。でも、コロナウイルスの危機が追い風になりました。テレワークは、今後、急速に浸透するでしょう。「ふるさとテレワーク」も急展開すると思います。

 

☆昔ブログ

この一言(ひとこと)の本文に登場している、和歌山県白浜町の革新的な取り組みを書いたブログがありました。2020年1月2日のブログです。以下に紹介しておきます。

「2019年4月に民営化した南紀白浜空港(和歌山県白浜町)はNECなどと連携し、顔認証によるキャッシュレス決済の実証実験を進めています。でも、ここでは、空港だけでなく、まちぐるみで取り組んでいることが重要なのです。実験に参加する旅行客は、顔認証で買い物をしたり、キーを持たずにホテルの客室を開錠しています。自国では、既に常識になっている、「楽な支払い」などが出来るので、訪日客は大いに喜んでいます。」(参考資料2、注6)

空港を運営する南紀白浜エアポートの岡田信一郎社長は、「小さい空港だからこそ出来るビジネスを極めたい」と力を込めて言っています。地方空港から新しい観光需要に挑む動きが生まれているのです。それが糸口になって、町全体の革新的な動きが始まっています。

 

私の過去ブログの中には、この本文が話題の中心にしているテーマを、記述しているモノがあります。すなわち、各地の自治体が都市部の有能な人材、テレワーク(注2)やワーケーション(注5)を使って招く活動についてです。具体的な話題が出ていますので紹介します。なお、このワーケーションというのは、前回の一言でも説明しましたが、work(ワーク)とvacation(バケーション)を結んだ造語」で、休暇中、旅行先でのテレワークのことです。

第一のブログは、2019年12月1日のブログです。このブログは、自治体がテレワークを使って民間人を兼業・副業で活用している事例です。

「今、日本の社会では、元気で働ける寿命は、年々延びています。元気に働けるうちに、第二の人生に役立つ仕事を、経験しておきたいと考えている大企業の管理職は大勢います。そして、そのような人の力を借りたいと思っている自治体や地域の企業も多いのです。そこで、この両者をつなぐ役目を果たそうと考えるスタートアップが、最近、次々と生まれています。

 

ここで最初に取り上げているスタートアップは、JOINS(東京・渋谷)です。同社は、都市部の大企業で働く40〜50歳代のミドル層にターゲットを絞っています。応募者はJOINSが掲載している募集者の副業案件の中から、希望するものを選んで応募します。リストには、2019年10月時点で、800人が登録しています。長野県と静岡県を中心に、半年で20件の副業案件を仲介しました。

これは人材を探している人が登録しているサイトですが、逆に、求職する人が登録するサイトも開始されました。フリーランス支援のみらいワークスは、2019年10月、ITなどの専門人材を地方企業に紹介する事業を始めました。これは副業支援スタートアップのgrooves(東京・港)から継承したものです。副業に関心のある2000人が登録されています。300社が求人に活用しています。

 

政府も管理職の副業を重視しています。2019年6月に閣議決定した「成長戦略実行計画」で、副業の拡大を掲げました。さらに、金融庁も、2018年に監督指針を改定し、銀行が、この動きを積極的に推進することを期待しています。

このように、今、都市の管理職などの有能人材と、この人達の活躍を求める自治体や地域の企業の間をつなぐ動きが、急速に盛り上がっています。これは都市部の「働き方改革」の推進と「地域創生」を、併せて進める、強力な推進エンジンです。(参考資料3、注7)

 

さらに次のブログは、都市人材と自治体を結ぶ「ワーケーション(注5)」のブロクです。

「自然豊かな地元へ、都市から、ワーケーションの人達が来て欲しいと思う思いは、全国、どこの自治体でも同じでしょう。2019年7月に、長野県と和歌山県が中心になり、「ワーケーション自治体協議会」を発足させました。参加したのは、長野、和歌山の2県のほか、秋田県湯沢市、神奈川県鎌倉市、静岡県下田市、長野県軽井沢町、和歌山県田辺市、白浜市、串本町の7市町です。

 

ワーケーションは、2017年頃から、日本航空などの大手企業や大手IT企業が、既に実施していました。「わが社は『ワーケーションを実施しています』と表明している企業の多くでは、休暇中に仕事をした時間も勤務時間扱いになり、給与が支払われます。これを実施している企業では、「休暇の間でも、柔軟な働き方ができる」と従業員に好評でした。

これまで、自治体側でも、各地の自治体でワーケーション施設を整備してきました。軽井沢町観光協会は、「軽井沢リゾートテレワーク協会」を設置しました。和歌山県では、全国に先駆け、2017年から、ワーケーションの企業誘致に取り組んでいます。

しかし、これまでは、資金力のある大企業が、ワーケーション市場需要の中心でした。でも、これからは、人材獲得に苦しむ中小企業や、地場産業に広がっていくと思われます。さらに、これは個人事業主やアルバイトなどの個人が、むしろ重要になるはずです。

今後の自由時間が拡大して行く社会では、個人の趣味と仕事の両立を助けるワーケーションの人気が沸騰するはずです。そうなると、これは「山村振興」にとっても、見逃すことができない動きになります。

 

山地には、美しい渓流があります。私は、若い頃、渓流釣りが趣味で、山へヤマメを求めて分け入りました。当時も、渓流のヤマメ、イワナを釣る「釣りきちがい」は、大勢いました。今後も、減ることはないと思います。山村を舞台にした趣味に対する渇望は、今後も大きく膨らむはずです。

一方、地元の受け入れ側も、自治体が準備したものより、個人の家が中心になって行くと思われます。私が学生時代、渓流釣りで泊めてもらった民家の主人は、渓流釣りの名人でした。各地に、重い道具を預かってもらっていました。

その頃は、これを皆に知らせる手段は、釣りの雑誌位でしたが、今は違います。世界にあっと思う間に、情報を伝達するSNS(注9)のインスタラグラム(注10)に、インスタ映え(注9)する写真を投稿すれば、凄い伝達力なのです。世界の8億人が一度に見るのです。インスタグラムのインスタ映えする写真が、世界の都会居住者の「日本の山村への憧れ」を生み育てます。(参考資料4、注8)

 

[2021年5月の今、考えること]

このブログを書いてから、一年余が経過しました。この一年間をみても、テレワーク、ワーケーションも、盛り上がっていたとは言えません。「大勢、集まって、大きな声をあげて盛り上げる」。これはコロナ下では、最もしてはならない事だったからでしょう。

コロナは、もう少しで終息しそうにも思えます。ここで再出発となったなら、この推進は、超強力に進めねばなりません。でも、コロナの根は残っているはずです。ですから、コロナの悪魔に利することのないように、過去とは違う進め方を、皆で、しっかり、考える必要があります。今が、まさに勝負時です。

 

(注1)参考資料1、日本経済新聞。自粛により職場に来る人の数の動き日本9%減のみ、外出自粛対応で、欧米と開き、グーグル調査。

(注2)テレワーク:勤労形態の一種で、情報通信技術(ICT、Information and Communication Technology)を活用し時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働く形態をいう。tel(離れたところで)とwork(働く)の合成語。

(注3)サテライトオフィス(satellite office): 企業本社や、官公庁・団体の本庁舎・本部から離れた所に設置されたオフィスのこと。

(注4)コワーキングスペース:共同で作業する場所(部屋)。

(注5)ワーケーション:work(ワーク)とvacation(バケーション)の合成語。休暇中、特に旅行先でテレワークを行うこと。

(注6)参考資料2、日本経済新聞、 2019年12月22日、12月25日から引用。

(注7)参考資料3、日本経済新聞、 2019年11月6日夕刊、10月30日から引用。

(注8)参考資料4、日本経済新聞、 2019年6月1日夕刊から引用。

(注9)SNS(Social Networking Service):ネット上で社会的なつながりを持つことができるサービス。ツイッター、フェースブックなど。

(注10)インスタ映え:インスタグラムに写真を投稿した際、見栄えが良かった、映えるという意味。本来は写真そのものだけではなく、高級なレストランに行った時など、その投稿の内容も含めてインスタ映えと呼ぶのが正しい。インスタグラム(Instagram):Facebookが提供している無料の写真共有アプリケーション。

 

参考資料

(1) 日本経済新聞、2020年4月5日。

(2) 椎野潤ブログ:訪日客 「地方空港への直行」急増、2020年1月2日。

(3) 椎野潤ブログ: 民間人材、兼業・副業で自治体へ、人材各社「地方へ副業」、テレワークを活用、2019年12月1日。

(4)椎野潤ブログ: リゾート地で、仕事と休暇を両立させる、自治体が連携してワーケーション受け入れやすく調整、2019年6月9日。

(5)平成31年度ふるさとテレワークに関連した施設説明、総務省、平成30年2月15日。

(6遠野型ふるさとテレワークテレワーク推進事業、岩手県遠野市、平成28年年3月。

(7) 岩手県遠野市、テレワークセンターから遠野の未来を創りだす、総務省、平成30年8月24日。

(8)令和元年度 「関係人口創出・拡大事業」モデル事業 (関係深化型・関係創出型) 成果報告書、 総務省、令和2年3月。

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