企業的森林経営について(2)

□ 椎野潤ブログ(金融研究会第15回) 企業的森林経営について(2)

 

文責:角花菊次郎

前回、「企業的森林経営」とは具体的にどのような経営スタイルなのか、そのポイントとして、企業的森林経営においては適正な原価計算による会計処理・経営成績の把握が大前提であるということを述べました。

今回は、いつ伐ったら収益が最大化するかといった伐採計画や回収の目処を付けた投資計画など、経営計画について考えてみたいと思います。

経営計画は主に生産計画、原価管理、投資計画の3要素で構成されます。そのすべての大前提となるのは資源管理です。ここは外せません。山林の資源データによって現状を把握しておかないと木の成長や将来時点の伐採量を予測することができません。そして、資源の成長具合が予測できれば、将来時点の販売価格次第で立木をいつ伐採して出荷したら収益が最大化するのか、その生産計画が立てられます。また、原価管理がしっかりしていれば収益性を評価でき、将来のキャッシュフロー(CF)が予測できます。すると、林道開設や機械化などの投資に関しても返済原資を見込んだ上で現実的な投資計画を立てることもできるのです。

つまり、経営計画を作成する出発点は資源データを整備した上での将来CFの予測であるとも言えます。この将来CFを予測するためには、①立木生産の収支予測、②木質バイオマスなどの副収入や森林保険・森林認証の取得コストなど立木生産以外の収支予測、③林地売買価格の予測等を行っていく必要があります。

まず①立木生産の収支に関しては、資源データをベースとした成長予測、原価計算をベースとした原価予測、そして標準単価をベースとした補助金等の見込みをそれぞれ算定し、予測していくことになります。次に②立木以外の収支も実際には予測しておかなくてはなりません。そして③林地売買価格に関しては、林地の集約化の過程における森林資産への投資を想定し、その「プライシング」に必要となる林地の購入価格と売却価格などを予測することになります。

一方、わが国では未計測や欠損など資源データの不備が多いこと、原価計算についても過去に投資した累積費用のデータが記録されていないことなど、実データを使った計算ができていないケースがほとんどです。このような状況で将来CFを予測する場合、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所が公表している「伐出見積もりシステム」(単発の伐出施業の収支を算出)や「FORCAS」(一定期間内の収支全体を算出)など推計値を算出できる収支予測ツールを活用することが有用です。

将来CF予測のような森林の経済性評価ツールの必要性と具体的な手順に関する研究は、林野庁による「令和4年度森林投資を見据えた森林評価手法に関する調査事業報告書」(令和5年3月)および同「DCF法による森林評価の考え方とその手順(ver.1)」(令和5年3月)にまとめられているので、ぜひ一読していただきたいと思います。これまでにない画期的な内容となっています。

森林所有者を含む森林経営サイドが立木取引価格の低迷や人件費等のコスト増など経営環境の悪化により、森林の経済性を評価する動機を持ち合わせてこなかったことは致し方のないことです。しかし、経営サイドが森林経営に興味を失ったのは、その所有する森林に経済的な価値があるのかないのか、といった点が見えていなかっただけかもしれません。

持続的な生産計画を立て、原価管理を行い、適切な投資を行えば、その森林は永続的に経済的価値を生み出してくれるかもしれない。そのことを検討し、‘数字’で明らかにする森林「経営計画」づくりが、今、わが国の森林経営者に求められていると思うのです。

以 上

 

☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

本稿は、森林所有者、森林組合、素材生産業者等、林業経営の主体によって、適用や応用のバリエーションがあると思いますが、収益を最大化する伐採計画や投資計画などの経営計画は、主に生産計画、原価管理、投資計画の3要素で構成され、その大前提となるのが資源管理であるとしています。森林の正確な資源把握は、このブログを貫いている主張でもあります。森林資源の成長具合が予測できれば、将来時点の販売価格に基づいて、生産計画が立てられます。原価管理がしっかりしていれば収益性を評価でき、林道開設や機械化などの投資計画を立てることもできます。

木材価格がなかなか上がらない現状で、機械の価格や、資材費、人件費が上がる中で、生産性だけでなく、林業経営の根本を見直さなくてはいけない現実にさらされています。これらの価格予想や技術革新も必要です。機械を償却し、雇用を確保していく上で事業量の確保も必要です。自然災害や病虫害などのリスク回避も求められ、さらには生物多様性や景観など、森林経営に対する社会の要求も厳しくなっています。原価管理をしていく上で、データを蓄積するとともに、作業内容が適正かどうかの分析や客観的検証も必要です。

成長量を把握して、伐採量を成長量以下にすることは持続的林業の基本です。林分ごとの成長を把握することで、地位(地力)が明確になり、ゾーニングや植栽木などの施業の指針が得られます。択伐施業では、成長量から伐採率と回帰年(伐採年の間隔)を決定することができます。間伐や択伐を繰り返すことで林相改良し、資産の充実を図っていくこともできます。資源管理をシステム化することで、森林に経済的な価値を付加していき、社会と連携していくことができればと思います。所有する森林の経済的価値をまずは ‘数字’で明らかにすることで森林経営に興味が湧いてくると訴えておられます。

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