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時を遡る船

少し前、法隆寺の古材が国宝に追加指定されたという新聞記事を読んだ。昭和の修理で再使用されなかった部材や、火事で焼け焦げた天井板など、その数は3,000点を超える。奈良文化財研究所などが中心となり、60年もかけて詳細を調査したそうだ。使われなかった材とは、腐ったりヒビが入ったりして建築材料として不適格

森林組合の多様性

森林組合は全国に607組織あって、それを束ねる全国森林組合連合会によると、2023年3月時点で所属する組合員の数は147万人、組合員や組合自体が所有する森林は1,047万ヘクタール、そして670万m3の木材を生産している。面積は全国の森林の約42%、そして2023年の国内の素材生産量が2,293万m

夏草の行方

彼岸を過ぎてなお異常な高温が続く秋、そんな中でも街路樹は色付き始め、金木製の香りが街に漂う。空き地を占領して伸び放題に繁った雑草も、黄色く変色して種をまき散らし、折り重なるように枯れたものが目に付くようになった。自宅近くの狭い歩道に接する家には、フェンスの外側に幅80㎝くらいの敷地があり、その家

森の入り口

天城峠を超えた先には、太平洋に面した伊豆の海が広がる。夏日の翌日にいきなり秋雨に見舞われた先週、母の米寿のお祝いにと、娘三人で海辺のホテルのスイートを奮発した。長年の立ち仕事で膝を傷め、ゆっくりとしか歩けない母は、大浴場には行かず、広々と海を臨める部屋の露天風呂を満喫した。これまで、母にとって浴場ま

変わりゆくものの中で

先日、千葉の女性林業家の集い「さんぶ木楽会」の仲間と一泊のバス旅行をした。木楽会は小規模ながら15年以上活動を続ける団体だが、中心メンバーが後期高齢者ということもあり、ホームページもなければSNSでの発信もしていない。地場の木を自分達の手で少しでも活用しようと、コースターや箸、カスタネットその他の木

街路樹と人口林

街路樹が伐られ、まだ瑞々しい切り株が、そこに樹木があったことをかろうじて思い出させる。最近そんな事が増えてきたように思う。銀杏の重さでイチョウの枝が折れ、下を通りかかった人が亡くなる事故も起きた。樹木にも寿命があり、いつかは枯れて朽ちる事が、一般の人々に知られ、受け入れられていくのは、ある意味良いこ

AIの呼び声

先日、林業関係者をモックの北千葉工場にお連れした。この工場の視察を希望するのは建築業界の人が多かったが、先月は林野庁や県の林業職の方々が来られたし、今回も一人は森林組合、もう一人は地域材の活用や林業・木材業の振興に取り組む方だ。お二人とも、林業だけでなく、金額的に最も大きな用途である建築についても一

幻の需要を追って

一週間前まで空だったスーパーのお米の棚に、複数の産地の新米が並べられていた。南海トラフ巨大地震の注意情報や台風の影響で、品薄になるという不安から消費者が買いだめし、手に入らなくなったお米。しかし農林水産省が発表したとおり、たまたま新米が出回る前の在庫の薄い時期が重なっただけで、9月になれば出荷が相次

山と施主をつなぐ工場

北千葉にあるモックの大型パネル工場を、林野庁と三県の、合わせて9人の行政官が視察に訪れた。一行は事前に海浜幕張のウッドステーションで、木造大型パネルが情報の集積体であることの説明を受けている。塩地会長が林業や建築の関係者を工場に案内するのは、高性能な建築部材がどれほど小規模な施設で作れるのか、それを

山と建築の再会

昔、村の大工は山で自ら木を選び、伐り出した材で家を建てていた。戦後、木材が海の向こうから運ばれるようになり、大工さんと山の繋がりは切れてしまった。プレカットの普及で手刻みは廃れ、ビニールシートに覆われた現場では、大工さんが何をしているのか、一般の人の目に全く触れなくなった。戦争で伐り尽くされた山の資

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