文月ブログ

春を待つ森

先日、林野庁の高官を訪問するウッドステーションの塩地会長に同行した。会長が開発中のシステムを使えば、いずれは誰でも建築図面から必要な部材の種類や量を簡単に抽出できるようになる。地域に林産クラスターを作り、部材情報を基に原木から建築部品を一貫生産する、そうなれば木材価値を一気に上げられるという会長の提案に、高官は熱心に耳を傾け、多くの質問を投げかけ、メモを取り、そして最後にこう言われた。「これはつまり、山側に建築にまで手を伸ばせということですね」会長は頷いた。「そうです。この技術を建築側が持てば、山は今までと同様に買い叩かれる。森林組合のような山側が持たなければ一気にはげ山が広がるでしょう」
高官は苦笑いしながらこう続けた。「どうも役所は逆の方向に行こうとしています。建築側に山に来てもらいたいと。なぜか、都会に高層の木造ビルが増えれば、自然に木材の価格が高くなると思っている人達がいるんですよ」
それはとんでもない見込み違いだというのは、私のような人間でもわかることだ。株主がいて利益を上げることが至上命題の世界では、自発的に材料を高く買うことなどあり得ない。需要が増えればコストは下がるのが当たり前で、木材業界には供給を絞って価格を上げるようなまとまった組織も戦略もない。
だからこそ、狭い地域の中で需要と供給を最短で結ぶ森林直販は、経済合理性に適う国産材の最適な利用法だと思う。顔の見える人達にお金が回り、裏山の木で家を建てるなら、そこに再び木を植えるのは当然という意識が共有される。祖先からの贈り物に包まれて、暮らしが続いていく。いつかはそこに、リモートセンシングによる立木段階での強度や材質の判定技術が加わり、森林がそのまま資源倉庫になる日も来るだろう。
「省内の志ある人達を集めて検討します」と高官は約束してくれた。今はまだ灰色に見える雑木林が、ある時一斉に緑の芽吹きに覆われるように、「山笑う」季節の訪れを待とう。

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