文月ブログ

森を巡る旅-故郷での講演①

一年近く前になりますが、中学の時のクラスメイトから、来年7月の高校の同窓会で、記念講演をしてもらえないかと依頼がありました。コロナ以前、久しぶりに開催したクラス会で、私が「この木なんの木?キャンペーン」について熱弁をふるったことがありましたが、彼はそれを覚えていて、私に連絡してきたのです。
聞けば今回が69回目とのこと、公立の商業高校で、それほど長く同窓会が維持されていることに驚きました。そして、卒業生でなく、専門家とも言えない私に講演の機会が与えられたのは、必ず生かすべきチャンスだと思い、即座に引き受けました。著名人やタレントに講演を依頼すると、安くても数十万円、時には1時間で数百万円という報酬を要求されます。予算がわずかしかない、という状況のため、私に話があったのでしょう。しかし、昔住んでいた場所に近く、妹の母校でもある学校の卒業生の皆様にお話するのですから、精一杯努めようと思いました。
講演のテーマを決めるにあたって、担当幹事だというクラスメイトに要望を聞くと、SDGsやカーボンニュートラルを取り上げて欲しいとのことでした。ニュースなどで良く聞くが、正直なところ、中身は良くわからないというのです。それはお安い御用ですが、それだけでは私が話す意味がありません。色々と考えた結果、『身近な森林から始まる「新しい資本主義」』というテーマで話すことにしました。
私が今、ウッドステーションと共同で取り組んでいる、国産無垢材を使用する大型パネルの製造ラインの開発は、地場の木材を仕上げと同時に大型パネルに加工することで、その価値を最大化し、地域内に大きな経済効果をもたらします。それは大きな資本が有利だとされてきた従来の資本主義の姿とは全く違う、小さな資本で地域内を豊かにする技術なのです。まだ開発段階ではありますが、大型パネルそのものは既に実績を上げていますし、栃木県の渡良瀬林産のような、地元の木材で製材を行う企業が導入すれば、無垢材のラインが無くても成立します。「新しい資本主義」は、必要だとは受け止められながら、中々具体策が見えないと言われますが、これは正にその一例だと自信を持って紹介できると考えたのです。
私を知っている人がほとんどいない中で講演するのですから、自己紹介に加え、なぜ私がこのような話をするに至ったのかを説明しなくてはなりません。森林・林業に目覚め、危機感を持った理由と、日本の林業の現状、なぜ国産材が中々使われて来なかったのか、そんな話を組み立てていきました。
林業が衰退産業となってきた理由は色々ありますが、わかりやすいのは、小規模・分散しているということでしょう。山崩れや火事で財産の全てを失うのを恐れ、広い山林を有する林家であっても、所有する場所は細かく分かれ、離れている場合が多いのです。これが、効率優先の資本主義において不利に働いたことは誰でも納得できるでしょう。更に、戦後の木材の不足と拡大造林、木材の関税引き下げ、自動車等の輸出品を載せた帰りの船荷は運賃が安かったこと、高度経済成長による山から都市部への人口移動など、日本の林業の辿った歴史を説明します。結果的に、山の手入れをする人はいなくなり、小規模で効率の悪い国産木材は価値が下がって、放置されるという悪循環に陥りました。土地の登記が義務でなかったことも手伝って、今や所有者不明土地の面積は九州と同程度に及ぶと言われます。
そんな日本の森林が、ようやくその価値を見直されるようになったのは、気候変動対策として森林のCo2吸収能力に注目が集まり始めてからでしょう。そして最近、SDGsの浸透に伴い、その重要性は益々大きなものになっています。
明日に続きます。

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