文月ブログ

森を巡る旅-故郷での講演②

SDGsは、2015年に国連で採択された17項目の目標です。私たち人類がこの地球で生き続けていくために、各国が2030年までに達成することを目指しています。その中で森林は、安全な水、クリーンなエネルギー、気候変動対策、陸の豊かさなど、多くの項目と深い関りがあります。そして大事なことは、その目標の達成のために誰かを犠牲にしてはいけない、「誰一人取り残さない」という姿勢が重視されていることです。
従来の資本主義では、より大きな資本を持つものが有利であり、しかも仮に大企業に所属していたとしても、何かあれば、企業自体を守るために、人は簡単に切り捨てられます。私がもといた会社も、親会社の業績悪化で、あっさりとライバル企業に売られてしまいました。効率優先の社会ではリスクの押し付け合いが普通に行われ、派遣社員やパート、一人親方、フリーランスといった、不安定な身分の働き手が増えて、特に若い人達は家庭を築く余裕を失ってしまいます。日本の人口減少は、景気の良かった時代から始まっており、様々な要因が絡んでいますが、現在においては、社会の二極化が大きな要因の一つと言えるでしょう。
大型パネルの技術は、身近な森林の価値を高め、地域内の需要を掴むことで、山と生活者を直接つなぐ「森林直販」を可能にします。そこには仲買も、遠方への輸送コストも発生しません。需要情報から逆算して木材の伐採や製材を行うことにより、歩留まりを上げ、原価を下げることも可能です。更に、大型パネルはサッシや断熱材など、木材以外の部材の利益も取り込んで、大きな利益をもたらします。その利益を山の維持管理に使えば、再生産が可能な資源を生かして、人がそこに暮らし続ける、好循環を生み出すことが可能になるのです。木の皮や製材の途中で出た端材、放置されて製材品に使えない細い丸太などは、バイオマス燃料としてエネルギーに変わります。森林資源を起点としてこのバランスを取っていくことが、私が推進しようとする「森林連結経営」なのです。
関わる人と購入者の顔が見える関係、一本一本異なる木材という生物材料を生かそうとする姿勢、効率でなく域内を豊かにすることを優先する事業運営は、人を大切にする経済を生み出します。多様な個性を尊重し、能力や必要に応じて働き、十分な報酬を得られる環境を作れば、若い人達が地域に定住し、家族を持つ人も出てくるでしょう。これが、「誰一人取り残さない」「新しい資本主義」につながる道だと思うのです。
7月10日、コロナのため例年より少ないとは言いつつ、70名もの聴衆を前に、私は上記のような話をしました。そして、熱心に聞き入ってくださった人々を前に、最後にこう付け加えたのです。「ここにお集まりの皆様は、人と人のつながり、ご縁を大切にされる方々であろうと思います。商業は、物作りや物流、販売など幅広い経済活動を通じて、人を、社会を豊かにするものだと思います。それを学び、社会で生かして来られた皆様に、今日お伝えしたいことは次の二つです。新しい資本主義には、恐らく様々なパターンがあると思われます。そのうちの一つが、地域の森林を活かし、効率でなく人を優先する、地域を豊かにする資本主義であり、実際に始まりつつあること、そして皆様ご自身にも、そこに関わるチャンスがあること、それを是非、覚えておいていただければと思います。」
温かい拍手を頂きながら、私は壇上から降りました。実際には何度も言葉に詰まりましたし、中には退屈して眠っておられた方もいて、決して褒められるような出来ではなかったでしょう。けれど、クラスメイトや他の幹事の方々にも笑顔で見送られ、何とか合格点には達したのかな、と感じます。
故郷に錦を飾る、と言うのは大袈裟ですが、懐かしい地に暮らす人々に話をすることができ、私は益々、森林連結経営の実現への意欲を燃やしています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP