文月ブログ

相応しい対価を払うために

夏を前に自宅のエアコンが寿命を迎えた。近くの家電量販店を回って購入する製品を決め、この時期なので数日後には取り換え工事に来てもらえることになった。朝から小雨の降る日、到着予定時刻の確認電話の中で、工事担当者が取り付け場所を3階だと認識していないことを知った。私は店舗の担当者に戸建ての3階でエレベーターも無いとはっきり伝えたのに、それは現場の作業員に伝わっていない。更に、やってきた職人さんが一人だけだったことにも驚いた。記憶違いかもしれないが、以前は二人がかりで作業をしていたと思う。
40代くらいの職人さんは、大量の汗を拭い、肩で息をしながら室内機と室外機を取り外し、外に運び出した。本体を毛布でくるんで運ぶ下りはまだいい、しかしガッチリ梱包された新品を無事に持ち上げられるのだろうか。私の不安は的中し、特に重たい室外機を運び上げる際は、ゼイゼイと苦しそうな息づかいが階下から聞こえてきた。時折自分に掛け声をかけながら、製品を下から支え、曲がった階段を少しずつ押し上げているようだ。二階の踊り場と二度目の曲がり角で、2分ほど上がった息が鎮まるのを待つ。そして最後に気合を入れて、やっと3階まで運び上げることができた。
思わず「無事で良かった」と声をかけると、「ドラム式洗濯機くらいの大きさがありますからね」と返ってきた。調べてみると、取り外した機種に比べ、室外機の大きさはタテ・ヨコ・奥行きの寸法が10~24%増えた上、重量も40キロを超えている。これを3階だと知らせずに、一人で運ばせるとは、何という冷酷な仕打ちだろう。
結局、取り付けや試運転、後片付けが全て終わったのは3時間後だった。私にできるのは、せめて水分補給をと冷えたお茶を渡すことくらいで、彼は午後も同じような現場に向かうのだろう。私が支払った料金の中で、工事費は2万円程度だが、実際にいくらが彼の取り分なのかはわからない。一人で作業するのは、収入を増やすための彼自身の選択かもしれない。しかし少なくとも、それが自分の夫や子供だったら、絶対にさせたくない奴隷労働だと思う。
省電力や機能の向上のために重くなる家電、それは建物の断熱性向上のために重量化するサッシと同じだ。狭く不安定な足場の上でサッシの取り付けを行う大工さんも、きっと同じような苦労をしているだろう。建築の場合は大型パネルのようなオフサイト化で重量にかかる負担を軽減することができるが、エアコンの取り替え工事などでは難しい。労働人口が激減する中では、アシストスーツなどが現実的な解決策なのかもしれない。
誰かを奴隷にして成り立つ暮らしなど私は嫌だ。それを避けるためには、生産と消費をできる限り小さなエリアで完結させることだろう。価格と費用を透明にし、手間と職能に相応しい対価が払われるよう、買い手側が意識する。自動車や家電は無理でも、木造住宅の躯体は可能ではないだろうか。今回の経験は、その夢の実現を諦めない理由の一つになった。

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