建築においてオンサイト(現場施工)とオフサイト(工場生産)の違いは何か、その質問に対してある大工さんは、「不確定要素が多いか少ないかですね」と答えた。オンサイトの場合、天候をはじめ、近隣への騒音影響や車の通行等の他にも、思いもよらない事態が発生することがある。大工さんは不測の事態に対応する能力を磨いていて、何があっても「何とかする」ことを期待され、それに応える事で雇い主の信頼を得ている。逆に言えば、オフサイトで天井クレーンなど必要な設備が整っている環境ならば、大部分の作業は予測可能な動作に収まると言える。近い将来、条件次第ではロボット生産も可能になるだろう。
もう一つの違いとしてその大工さんが挙げたのは、オンサイトの場合、毎回違う場所に通う負担が大きい事だった。身近な物件が多く大工さんが大勢いた昔と違い、今は多くの大工さんが車に道具を満載し、時には片道1時間以上かけて現場に向かう。燃料も駐車場代も自腹なので、付近の駐車場をネットで調べ、最も安い場所を目指して夜明け前に家を出る事も珍しくないと聞く。道具類は現場に置いたままでは盗まれるので、毎日持ち帰る。せっかく行っても、前段の作業が終わっておらず、仕事ができない場合もある。関わる作業者と不確定要素の多さ、移動の負担、トイレやコンビニが近くにあるかなど、労働環境への細かな適応を日々強いられる。
ではオフサイトなら全てが解決するかと言うと、そこにもデメリットはある。パネルの状態では建物の外皮は一日で完成するが、内側の壁や配線などは現地施工になり、中途半端という批判は免れない。一方、内装や住宅設備、外壁まで全て完成させ分割して運ぶユニットにするのも様々なリスクが伴う。例えばユニットごとに吊るして運ぶため柱や梁が二重になる、電気配線が複雑になり手間がかかる、吊るした時の変形・運搬の振動でユニットバスやトイレの防水が切れる可能性があるなどだ。他にも、保管に広いスペースが必要で、作ったらすぐに搬出しないと次の生産ができない、地元の工務店が関わる余地が少なく、長期的なメンテナンスに不安が残る点も重要だ。そのような各種条件を考え合わせると、ウッドステーションが大型パネルの供給に留めている理由も理解できる。大工さんに重量物の負荷をかけない、パネルの精度に拘って品質を担保する、一日で上棟・施錠できるので大工さんが道具を置いて行ける、天候などの理由で上棟が延期になってもある程度は保管が可能、内装工事などを地元の工務店に頼むことで長期的な関わりを持ってもらえる、そうしたメリットを最大化できる形態が大型パネルだという判断なのだろう。もちろん、能登震災や離島のように、現地の職人が少ない中で素早く供給する事を優先するならユニット化の利点が光る。オフサイト建築には他にも数多くのバリエーションがあり、立地や構造、価格・納期・デザインなど条件によって最適な作り方は変わる。
では、建物の設計図書と地域の森林資源をつないで木材を高く買い、施主にはリーズナブルな価格で提供する森林直販の実現にはどんな工場が必要なのだろう。その地域の木材の品質や、伐採・搬出事業者のITリテラシー、製材やプレカット事業者の動向、地域に根差す工務店の数や経営状況、地域の人口動態や望まれる住宅の在り方など、多岐にわたる検討を経て導き出していく必要があるだろう。
オンサイト建築では、木材は素材の一つでしかない。オフサイト建築の技術を山側が持てば、木材を住宅部品にまで高めて価値を上げ、地域の木材で域内の木材需要を賄うことができる。建築の奥深さを肝に銘じ、更に学んでいこうと思う。
文月ブログ
コメント