埃だらけの道を、自分の身長の半分近くもあるポリタンクを両脇に下げて歩くニジェールの少年の姿、ギュッと結ばれた口元がその任務の厳しさを示している。最近届いたユニセフ季刊誌の表紙とその特集記事は「水の破産」が世界中の多くの人々にいかに深刻な災いをもたらすかを知らせるものだった。
「水の破産」は2026年1月に国連が新たな脅威として示した警告で、一時的な水不足ではなく、自然の回復力そのものが人間の水の使用量に追いつかなくなりつつあることを意味している。「危機」という言葉はそれを乗り越えれば元に戻るようなイメージを与えるが、今起きていることは、自然の供給量を超える水の消費によって、地下水や氷河、湿地など自然の貯水庫までがやせ細っていく収支バランスの破綻だ。
季刊誌によると、1990年以降、世界の大型湖沼の約50%で大幅に水量が減少、主要な地下水脈の約70%で長期的な減少傾向がみられ、湿地は1970年から2015年までの45年間で約35%も消失しているという。その結果、世界中で40億人もの人々が深刻な水不足に直面し、子供の3人に一人が影響を受けている。
水不足の原因は大きく4つあり、①人口増加による需要の拡大、②都市化による地下水への過度な依存、③気候変動による供給の不安定化、④デジタル化・AIによる新たな水需要だ。特に④に関して、先進国に住み、デジタル化やAIの恩恵を受けやすい私達は、巨大なデータセンターの冷却水や、半導体製造に欠かせない大量の水を世界の人々から奪っていないかどうかに敏感にならなくてはと思う。TSMCが熊本に進出したのも、そこに豊富な水があったからだ。日本には多くの降水量・水資源があり、影響は少ないと思いがちだ。しかし熊本では水を地下に浸透させるために、植え付けをせず田に水を張るだけで補助金がもらえる制度もあり、地域の文化や景観を損なう側面が懸念されている。
私が森林資源を地元で消費し、経済を循環させる仕組みに拘るのは、それが都市部への人口集中に歯止めをかける術だと思うからだ。世界中で、干ばつや湖の消滅のため人々は農業や漁業ができなくなり、生きていくために都市に集まり、それが過剰な地下水の汲み上げにつながるという悪循環が起きている。人口こそ急激に減少しつつあるが、蓄えた資本や先端技術があり、豊かな森と郷土を守りたい人々がいるこの日本でなら、地域で暮らす幸福の追求が可能だ。
食料の輸入も、ある意味では水資源の強奪に近い。牛肉300グラムの生産には、約6,200リットルの水が必要だそうだ。円安を嘆くばかりではなく、食料自給率を上げる試みを応援し、木材資源を貧しい人々への安価で質の高い住宅部品として輸出する道を拓くものだと受け止めてはどうだろう。大型船の輸送コストは限りなく低いので、いつか冒頭の少年に、日本の雨で育った木の家を届けられる日が来るかもしない。地球を循環する水の流れは見えない場所で繋がっている。森を育て、水と光と有機物が時間をかけて結晶した「木材」という宝物をより多く生みだすことが、日本に暮らす私達にできる「水の破産」への抵抗の一つなのではと思う。
文月ブログ
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