日本の森林には、激変する日本の社会を支え蘇らせる力がある、私はそう信じて発信を続けている。それは直感であると同時に、そうすることが同じ志や必要な技術を持つ人々を呼び寄せて化学反応を促し、実現可能性を高めるからだ。逆に森林の可能性を信じない事には何の利点も無いと思っている。そんな私を大いに後押ししてくれる本に出合った。
「日本―没落か再生か 時代精神とアニマルスピリッツ 吉川洋著」著者は1951年生まれの東大名誉教授で、専攻はマクロ経済学だ。
この本を読んで、私は一つの謎が解けた気がした。それは多発する特殊詐欺でお金(時には1億円を超える現金)をだまし取られる老人はそのお金をどうやって得たのだろうというぼんやりした疑問だ。私はバブル崩壊を会社員時代に経験したが、その時に銀行や企業が背負った不良債権の多くは、高騰した都市部の土地や、リゾート開発で買われた地方の山林など、つまり個人から買ったものだった。そうした「富裕層」は東京に1万人、地方に77万人いたとされる。総世帯数の1.7%とは言え、戦後の一時期「一億総中流」と言われた時代から、今日まで続く格差社会への転換がこの頃に始まったのだと、恥ずかしながら初めて理解した。著者は、敗戦を経て死んだ人達の分も生きよう、社会を豊かにしようと奮闘した日本人の精神が、30数年を経て変わっていった事を指摘する。人々が金儲けに走り目先の利益に振り回されたためにバブルが起き、その崩壊後は負債を抱えた企業が全くリスクを取らなくなったために、失われた30年が続いているのだと言う。その時代を生きる人々の精神が経済や社会を動かす、それが時代精神というもののようだ。
アメリカも大きく変わった。1929年の大恐慌でローズベルトが行った「ニューディール」は、大規模な公共投資、社会保障法や公的年金の創設など、「福祉国家」建設の理念としてその後40年にわたり引き継がれたが、1973年のオイルショック辺りから、市場における個人の選択の自由を重視する「小さな政府」が支持を集めるようになった。フリードマンの「企業は株主のもの」という考え方が浸透し、日本との貿易摩擦や製造業の衰退といった社会背景の中で、企業は金儲けを第一の目標とし、寛容ではなく他者への攻撃が生き残りの鍵になっていった。その究極の姿がトランプ大統領だろう。
著者は、日本が今の状況を打開するには、ケインズが本来企業の本質だと表現した「アニマルスピリッツ」が必要だと説く。計算や合理性で動くアポロ的な行動様式ではなく、情念や衝動に突き動かされるディオニュソス的な行動がイノベーションには不可欠だという。そして、シュンペーターを引き合いに、人口減少に伴う諸問題はイノベーションによって乗り越え得ることを示唆する。没落か再生か、それはその時代を生きる人々の精神によって決まると、著者は最後に若者に向けて、哲学者アランの言葉を贈った。「ペシミズムは単なる気分にすぎないが、オプティミズムは意思である」
大きな深呼吸が副交感神経に働きかけ、体の緊張を和らげるように、楽観論も自らの意思と行動でその信憑性を高められると私は思う。AIの影響による、労働者のオフィスから現場への大移動は既に始まっている。世界の人々が失業を怖れる中、日本は労働力の半減をAIで補うことができる幸運な国だ。森林を中心とした新しい産業ができれば、国土を守りながら地方で豊かに暮らすモデルができる。清新な時代の息吹を生みだすために、可能性を信じて進み続けよう。
文月ブログ
コメント