文月ブログ

森と生きるために-大型パネルによる森林直販

これまでの日本の木材生産・流通は完全なプロダクトアウトでした。買い手を探してどこまでも運び、買い叩かれることを繰り返してきたのです。在来木造に使われる部材の種類の多さは在庫量を膨らませ、利益は輸送コストに消えていきました。最終製品までに多くの事業者の手を経る必要から、製材品の質に対する責任はとことん低下しました。その結果、9本、12本といった束で売られる製品の結束を解くと、内側に粗悪なものが混じっているのは当たり前という悪慣が根付いてしまっています。
大型パネルの技術は、森林直販を可能にします。中山間地域にも住宅を始めとする建築需要はありますが、実は地元の木材が使われるケースは少ないのが実情です。工務店に依頼すればほとんどが輸入材か、国産でも他の地域で生産された修正材や合板が使われるでしょう。誰も地元の木で家が建てられると思っていないのです。しかし大型パネルの工場があれば、施主の希望に沿った住宅の部材情報が山の資源データと照合され、建築確認申請から2か月半後には、適した木材の伐採搬出、製材乾燥・パネル製作が行われます。必要なのは、杉の無垢材を柱として使える、小規模な工場の生産ラインです。100%地元産にこだわらなくても、品質的に供給の難しい横架材は外部から取り寄せ、地元の無垢の杉を柱に使えるだけで、可能性は大きく広がるでしょう。現行の木材乾燥技術は少量多品種生産に適合しておらず、そこには技術革新が必要ですが、事業者間のネットワークで乗り超えることも可能でしょう。山主、木こり、製材業者、大工、その全ての人々の顔が見え、施主がどんな人なのかもわかります。そこには自然と責任感が生まれ、施主は品質と労働に相応しい対価を、事業者は信頼と金銭に応える家を、互いに提供しようとするはずです。相手を騙し、自分だけが得をしようとする商売から、関わる全員が誇りと満足を得られる事業へ、それがスモールサプライチェーン=「森林直販」のもたらす最大の効果なのではないでしょうか。
さらに、「ハーフ住宅」という製品は、暮らすために必要な躯体と、水回りや電気などの設備が整った状態で引き渡され、施主自身がそこに住みながら、内装を行うこともできます。生活者が建築の担い手にもなることで、価格が抑えられる上に、普通なら見えない木組みを自分の目で確かめ、必要に応じた内装を施せばいいのです。もちろん、施工の難しい箇所は、無理せず大工に頼むと良いでしょう。
森林直販の鍵は、需要情報を山に還す、何がいくらで売れるかを伝え、予約できることです。計画的な生産は、バイオマス用の燃料供給においても長期的なビジネスモデルを成り立たせます。すぐに資源情報を把握でき、所有者の同意を得られる、搬出可能な山からまず始めれば良いのです。確実に儲けが出ると分かれば、周囲も追随するでしょう。森林が価値を持つと知れば、都会に住む山主も放ってはおかないはずです。
技術革新と意識改革の波が、大型パネルという黒船を乗せて都市から地方に広がろうとしています。最初はさざ波に過ぎませんが、次第に大きなうねりとなって、各地に押し寄せていくでしょう。その様子を、自ら当事者として目に焼き付けたいと願っています。

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