文月ブログ

森林組合が作る木造建築

農家が自ら育てた野菜や果実を使い、ジャムやジュースを作る、レストランで料理として提供するなど、付加価値を高めて販売する試みは沢山ある。しかし、林業事業者が育てた木を使って最終製品まで作るという事例は少なく、あっても木のコースターやカトラリーなどの木工品、木材を組み合わせた什器などがほとんどだ。木材の用途のうち金額的に最も大きいのは圧倒的に建築用材なので、林業の六次産業化を言うならば、自ら建築を手掛けるのが王道だろうと思う。木材の価格が安いのは、国際流通商品としての相場に頭を押さえつけられているからだという。だったらなおのこと、建築にできるだけ近い部品まで作ることで十分な利益を確保し、再造林を進めることはできないものだろうか。
建築には、不動産や建築の法規に関する知識・手続き、金融、お施主さんとの対応など多方面にわたる業務が必要なので、そこは地域の工務店にお任せする方が良さそうだ。しかし、木造躯体を作り上げるところまでなら、森林組合の職員にも十分可能な技術が既に存在する。
そんな無理な話、と思うかもしれないが、佐伯広域森林組合は現在、2×4用のスタッド生産を開始するため、新しい工場を自前で建設している。在来のATA工法で建てられた棟を実際に見ると、約1000㎡の建物のほとんどは木材で、これは確かに木を扱う人が建てるのが相応しいと感じた。上棟時も大工さんはたったの4人、他は森林組合の職員が加わって、建て始めてから屋根をかけるまでわずか半月、慣れないゆえのトラブルが無ければもっと早かったと言う。ほぼ同じ面積の残りの2棟は、比較のために2×4で建てるそうだ。森林組合なので建築の専門家はいない。それでも彼らは勉強して設計士と渡り合い、基礎屋さんと交渉し、余裕の無い敷地にどうやって3棟の建物を組み上げるのか、日々頭を悩ませている。
現場管理に携わる柳井氏は、高校卒業後に台車挽きの製材所に勤め、森林組合に入った後、山仕事、アメリカ製巨大製材機の工場、プレカット事業、経営計画、システム構築、苗木の自前生産と、林業・木材産業の全てに関わってきた。そのような経験が、次は建築をやれと言われた時に、(抵抗感はあったにしても)否応なく必要な知識の習得に励み、後輩達にも同様の姿勢を促したのではないかと思う。できない理由を探すのではなく、どうしたらできるのかを考え、力を尽くすのが、この組合では普通のことなのだ。
来月には全ての建物が完成し、10月には機械が入って、試験的な生産が開始される予定だ。この新工場の材は、「再造林協定」によって、再造林費用を上乗せした価格で取引されることが決まっている。九州のスギは弱いと言われてきたが、大径化すれば外側の部分は年輪が狭まり、強度が高まる。カナダ産SPFの材質が落ち、円安にも悩む2×4業界から見て、引っ張りだこになるような品質を実現して欲しい。
製材所を手掛ける森林組合は全国に沢山ある。自前でなくても近隣の製材所と手を組んで、互いが得をする商流の最適化、そして建築部品の製造に取り組んではどうだろう。森の守り手による「森林直販」の実現こそ、住宅資金を地域に循環させ、十分な待遇と、一生をかけてやりたいと思う「誇りある仕事」を両立させる術ではないだろうか。

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