文月ブログ

新たな製材への挑戦者

製材は木材利用のボトルネックになりやすい。ウッドショックの時も、国産材増産の上限は乾燥機の容量の合計だと言われたのを記憶している。量が増えないのは、中小の地場製材所が収益を確保しにくく、新規参入より廃業の方が多いからだろう。騒音や木屑にまみれ、危険を伴う作業でもある。大手の製材工場がFITの恩恵を受けて新工場を建設する中で、中小工場は今も厳しい経営が続くところが多いようだ。
そんな中で、廃業した製材所を昨年再稼働させた若者に話を聞いて驚いた。彼は私に、「自分は製材をそんなに難しいと思いません。」と言ったのだ。私がこれまで話を聞いた中小製材所の方々は皆、製材がいかに難しいか、奥が深いかを語っていた。それは、一本の木からいかに多くの価値を生み出すか、木を見る目と木取りの巧拙を競って生き残ってきたのだから当然とも言える。
彼は更に続けた。「昔は一本の四方無地の柱を何十万円という価格で売ろうとしていたから、そのための技術が必要だった。しかし今は、売り先や売り方を見つける方が難しい。売りがわかれば、それに合わせた製材をすること自体はそれほど難しくない。」
聞けば、彼は大学時代に、文化の違いの多くは自然と人との関係性で決まると学んだそうだ。その関心の延長で林業を仕事にする際、彼は敢えて「商売」に重きを置く企業を選んだ。そこで、川上と川下の中間にある製材という仕事に出会って手ごたえを感じ、営業や生産管理の経験を積んだ後、転職して今の土地にやってきたという。
製材は地域の木材を活かす上で欠かせない生命線だが、技術の習得に何十年もかかるようでは、新しい人は入って来ない。私はもちろん技術者をリスペクトするけれども、彼らのノウハウをAIに学習させ、デジタルで再現できないと、森林直販の実現は難しいと考えていた。しかし彼はそれ以前に、まず「売り」から入り、製材だけでなく乾燥の技術も組み合わせて、経営を成り立たせる合理的な方法があると主張し、実践しようとしている。
この地での成果を他の地域に適用するとしたら、必要な条件は何だろう?そう聞いた私に対して、彼は少し考えた後、「森林の解像度を上げること」だと答えた。「地域材を使いたいなら、できれば他の素材で代替できないくらい、フィットさせることが理想だと思う。それがどんな製品なのかを見極め、探し出せるような人間関係が築けるかどうですね。」
森林直販の実現には、1000か所あれば1000通りのレシピが必要だ。ただ、一見全く違うように見えても、底には普遍的な共通項がいくつもある。それを土台にして、異なる細部に的確に対応する柔軟さが求められるだろう。彼の挑戦が成功し、いつか森林直販の実行者に加わってくれることを期待したい。

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