文月ブログ

駆除された鹿と悲しいヒグマ

JRの駅構内にあるカフェで、鹿肉のジビエカレーを食べた。定番商品ではなく、一定期間ごとに変るメニューだ。値段も特に高い訳ではなく普通に美味しかったが、繰り返し食べたいかと聞かれると微妙ではある。シカ、特にニホンジカは捕って解体しても食べられる肉の量はわずかで、食肉にするには厳しい安全基準を満たす必要があり、中々採算が合わない。簡単に言えば、鉄砲で打ったシカはほとんど食べられない。罠で捕らえてとどめを刺し、適切に血抜きをして許可を得た加工施設に運び、衛生管理の元で解体されたものしか流通ルートに乗らない。だから当然値段は高くなり、大量消費につながらないのだ。その結果、年間80万頭近くも駆除されるシカの多くは、山野にそのまま放置されることになる。
そんなシカ肉の味を覚え、牛を襲うようになったクマがいた。OSO(オソ)18と呼ばれ、2019年から北海道東部の標茶町付近で66頭の牛を襲い、人々を恐怖に陥れた。子供の頃に兄弟で牛を襲い、一頭は撃たれて死んだが、OSO18は体に弾丸を受けながらも逃げ延びたらしい。ヒグマはツキノワグマに比べれば肉食性が高いとされるが、普通は雑食で、木々の芽、フキ、果実なども食べる。しかし最近、意外な形で駆除されたOSO18の骨を調べると、肉しか食べた形跡がないという。栄養の偏りが原因かどうかはわからないが、やせ細ってむくみ、衰弱して人里の近くに現れ、射殺された。
農林業関係者にしてみれば、増え過ぎたシカは長年の苦労を無にする憎い敵で、被害が少なくなるよう駆除するのは当然のことだ。例えばオーストリアなどでも、森林に大きな被害が出ないよう適切な頭数管理をするため、狩猟関係者と緊密に連携していると聞く。狩猟が文化として広く根付いているかの地では、ハンターの免許を持つ人は日本の10倍いるそうだ。
シカやイノシシがこれほど増えて、被害が顕著になってから大量に駆除し、その結果が異常なヒグマを生んでしまう。OSO18を追いかけていたハンターは、この悲劇が繰り返されることを危惧していた。
ではどうすれば、という解決策は正直思いつかない。命の重み、自然のバランスが崩れることの怖さ、人間の無力、それを胸に刻みながら、山で生きる人々の傍らにいようと思う。

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