文月ブログ

鹿児島で見た建築と林業の現実

鹿児島市は、市電の走る広い道路、風に揺れるヤシの葉、ロック並みに濃い水割り焼酎、何を取っても豊かさと異国情緒を感じられる街だ。

鹿児島大学に呼ばれ、2コマの講義を行ったウッドステーションの塩地会長は、「木造建築と国産材活用の同時成長」というテーマで話をした。ごく簡単にまとめれば、森林を資源倉庫としたカンバン方式を実現せよ(伐るな・切るな・動かすな)。林産クラスターによる一気通貫生産で地域の木材需要を取り込み、産業構造を組み替えて森林産業を創出せよという内容だ。建築学科の学生向けの講義だが、寺岡農学部長をはじめ、林学課の学生も熱心に耳を傾けていた。建築と林業は手を取り合って未来を拓け、それが塩地氏のメッセージで、ここ数年、氏が取り組んできた事業の集大成と言っても良い。建築の基本を知らない林学の学生には難解だったかもしれないが、「伐ってみなくてはわからない」という甘え、品質保証からの逃避を続ける限り、林業は自分が身を投じるに値する産業になり得ないことを、感じ取ってもらえたのではないかと思う。

翌日は、地域の有力工務店と大資本の工場を続けて見学した。

株式会社シンケン、鹿児島県を中心に年間100棟程度の注文住宅を手掛け、大手ハウスメーカーをしのぐブランド力を築いてきた会社だ。そのシンケンがつい最近、「スタディハウス」という規格型住宅のモデルハウスをオープンさせた。価格は従来の注文住宅の半額程度で、最低限の施工だが十分に人が暮らせる家が2,000万円~、造作家具や庭、外構などを美しく整えた家が2,800万円~、それを比較して自分が欲しい状態を選べるよう、2棟が並んで建っている。室内は木目と白いモイスの壁が調和し、その日の気分で好きな居場所を選べるようなワクワク感が散りばめられた、小さくても洗練された家だ。

次に向かったのは三菱地所などが出資するMEC(メック) Industry、鹿児島空港近くの山間に130人が働く巨大な工場とオフィスを建設し、地元の木材で住宅まで作り、施主に直接販売を行っている。製材所の原木消費量は年間50,000~80,000m3、それをわずか2シフト10人前後で回すというハイテク工場だ。CLTと2×4(ツーバイフォー)を組み合わせた箱を連結する住宅「モクウェル」は一戸1,000万円~1,300万円という破格の安さで注目を集めたが、施工可能地域が限られることもあり、生産はまだ大きな数量に至っていない。主力製品は2×4用のスタッドや、簡単な木質化に使うMIデッキという建材のようだ。

この工場は間違いなく森林直販を実現している。そして、従来のようには注文住宅が売れなくなってきた住宅市場に、国産材を使った格安の規格型住宅を投入した。先述したシンケンもその流れは同じで、激しい競争の中で生き残るために、低価格でも高品質な家を提案している。住宅産業の持つダイナミズムによって、製品やサービスは研ぎ澄まされ、早いスピードで進化しているのだ。

一方で、巨大工場に吸い込まれていく原木の伐採跡地には、3割程度しか再造林がされていない。この工場がその事実に目をつむり、従来と同様の価格・手法で木材を買い続ければ、はげ山を広げ資源収奪産業と言われても仕方がない。そしてモクウェルが施主の支持を得て飛ぶように売れるようになれば、周辺の地域工務店は壊滅状態に陥るだろう。

負けてたまるかと鋭い目でモクウェルの生産現場を睨んでいたのは、シンケンの迫(さこ)社長だった。長年、施主の厳しい要求に応え、メンテナンスを含む顧客との付き合いの中で培ってきた自分達の技と経験で、この巨大資本と堂々と渡り合ってやる、そんな気概が全身からにじみ出ていた。

林業にはこんな格闘家がいるだろうか。地元の森林と経済を守るために、自ら建築部材の生産に手を伸ばし、林産クラスターの形成と運営に力を尽くす、そんな努力を山側がしなければ、やがて建築業界に飲み込まれてしまうのではないだろうか。

今ならまだ間に合う。分岐点にいるのだという認識を持ち、森林産業を作ろうとする人に、勇気をもって手を上げて欲しいと切に思う。

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