文月ブログ

森を巡る旅-信濃町の森林セラピー

森林・林業にハマってしばらく経った頃、始めたばかりのSNS上で、「森林セラピーの一環として森林整備の作業を行う」という言葉が目に飛び込んできました。当時は間伐遅れの林を何とかしなければ、という思いが強かったものの、「森林セラピー」という新しい分野と森林整備を結びつける発想が新鮮で、すぐにその発信者に連絡を取ったのです。それが、信濃町で昔から今日まで、粘り強く活動を続けるK氏でした。
「森林セラピー」は「アロマセラピー」から連想して作られた造語で、NPO法人森林セラピーソサエティのホームページには下記のような記載があります。
「森林セラピーは、科学的な証拠に裏付けされた森林浴のことです。森を楽しみながらこころと身体の健康維持・増進、病気の予防を行うことを目指します。(中略)森林セラピーを楽しめる「森林セラピー基地」と「セラピーロード」は、現地と都会で比較実験を行い、癒しの効果・病気の予防効果が科学的に認められたお墨付きの森です。2006年から認定が始まり、現在では全国に63ヶ所誕生しています。」
当時、信濃町はこの森林セラピー基地の認定をうけたばかりだったと記憶しています。しかし、信濃町が他の地域と違っていたのは、町役場に「癒しの森係」という役職があり、町をあげて取り組む姿勢が際立っていたことです。私がこの地を訪れて、初めて森林セラピーを体験したのは、雪の積もる真冬のことでした。
訓練を受けたガイドの女性に案内され、いくつものプログラムを体験しましたが、強く印象に残っているのは、15分ほどの間、森の中で一人になったことです。ガイドの方に促され、私はその場で自分が一番好きだと思う木を選んで、その太い幹に抱きつきました。そして今からしばらくの間、自分はその場から離れます、と言って、彼女は遠くへ歩き去りました。森の中に自分一人だけと感じた瞬間、全く思いがけず、目に涙が溢れて止まらなくなり、私は声を上げて泣きました。正確には一人ではなく、自分が抱きついた樹木が、私の心に仕舞われていた不安や焦り、悲しみを受け止めてくれる気がしたのでしょう。こんなことは初めてで、驚くと共に、森林の持つ力を心の健康に生かす技術の可能性を体感した出来事でした。
昨年の秋、私は久しぶりに信濃町を訪れ、作家の故CW・ニコルさんが情熱を注いだアファンの森で、森林セラピーを体験しました。偶然にも、あの時と同じガイドさんが、変わらぬ優しい笑顔で、私達を連れて森を案内してくれたのです。今回も、各自が森の中に入り、好きな場所で寝転んで、一人になる時間がありました。様々な木の樹冠に縁どられた空を見上げながら、あれから自分が辿ってきた道を思い返した私は、更にこの先へと、真っ直ぐに歩いていく自分をイメージし、泣くことはありませんでした。
信濃町は、都内で毎年、行政や観光関連、町で研修を行う健保などの担当者を招き、取り組みの現状を紹介すると共に交流を深めるイベントを開いています。地道な努力が効を奏し、森林セラピーと言えば信濃町、と言われるほどの、確かな評価を得ています。当初目に留まった「森林整備」という作業がプログラムに残っているかどうかわかりませんが、森林の持つ力で人を癒す、それを実現していることは間違いなく、何度でも訪れたいと思う場所です。

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