文月ブログ

森を巡る旅-言葉の探求その5「佐伯広域森林組合との出会い①」

旅行会社に定年まで勤めた後、退職した私は新木場の小さな木材団体で一年ほど勤務しました。ウッドステーションの塩地氏は以前から知っていましたが、その団体の主催するセミナーの講師を依頼したご縁で、氏が開発した「木造大型パネル」や、経営指導をされた森林組合について、深く知ることになったのです。
氏が長年関わってきた「佐伯広域森林組合」は、大分県の佐伯市にあり、年間約25万立法メートルの原木を生産すると共に、自前の製材工場で年間約5.5万立法メートルの製材品の加工も行っています。私が驚いたのは、伐採する面積約350ヘクタールのほぼ全てにおいて、再造林(苗木の植え付けとその後の手入れ)を行っているということでした。
林野庁が発表する林業白書にも、日本の人工林の主伐(間伐ではなく利益確定のために全ての木を伐ること)面積に対する再造林率は3割と書かれています。木材の価格が安過ぎて、山の所有者が再造林の費用を負担しない(できない)、植えてもシカなどに食べられてしまう、といったことが主な原因です。そんな中で、ほぼ100%再造林をしているというのは本当なのか、なぜできるのか、という疑問から、私は塩地氏に佐伯の視察を希望しました。
2021年11月、大学の研究者や出版、金融の関係者と共に佐伯を訪れた私は、組合長の掛け声のもと、様々な工夫をこらして山主さんに再造林を勧め、それを実行する人々に出会いました。佐伯では、県の補助金も活用し、山主さんからヘクタール当たり10万円という、他地域から見れば破格の費用で再造林を請け負っています。シカ除けには柵の外側に「スカート」と呼ばれる長く垂らしたネットを広げます。枯れた苗木は無料で植え直し、5年間は雑草に負けないよう下草刈りも行います。市内の山の斜面には、ケシ粒ほどの小さな苗木から、立派に杉の樹形になった若木まで、様々な樹齢の木が育っています。日本全体では、樹齢50年から60年の木が突出して多く、ことに30年未満の若い木が育っていないことが問題となっていますが、佐伯ではバランスのとれた森林の形成が試みられているのです。
そして、私が心惹かれたのは、共販所と呼ばれる木材の取引所でも、製材工場でも、チップの生産場所でも、若い人達が明るい顔で、誇らしげに仕事をしていたことでした。来訪者向けの案内が書かれたボードを手にし、施設の役割や生産量、留意していることなどを、たどたどしい言い方ながらも笑顔で説明します。私達を先導している組合の幹部もその様子を温かく見守り、時折突っ込みを入れていました。若者:「ここがピッキング工場です!」幹部:「おいおい、全部手作業なんだから工場って言うなよ」こんなやり取りがあちこちで交わされますが、叱責ではなく優しい口調で、周囲も笑顔になっていました。
更に、苗木の生産を行っている施設では、いかにも優しい雰囲気の男性が、多くの生産者のやり方を尊重しながら、自分なりの工夫を凝らしている様子に惹きつけられました。何気ない言葉の中に、この組合で働く人達の意識の底に流れている、何か光るものを感じたのです。
佐伯広域森林組合は、10年ほど前、製材機に20億円という多額の投資を行いましたが、製品の販売先の開拓に苦労していました。一昨年には、コロナの影響による住宅需要の縮小見込みで、原木の価格が市場最低レベル(1立法メートル当たり7000円)まで落ち込み、経営の危機に喘いでいたのです。私達が行った時には木材価格が持ち直し、新たに取り組んだ大型パネル工場の製品の成約もあって、組合全体の雰囲気も明るかったのですが、ここまで来るのに要した苦労は相当なものだったと思います。
そんな組合の視察の様子を、私はレポートにまとめることになっていました。自分が見たものの価値、その尊さを思うほど、的確に書き表すことができるのかと、怖くなりました。自分の感覚には自信があったものの、適切な表現を用いて共感を得ることができなければ、単なる思い込み、独りよがりと言われてしまうでしょう。
この続きはまた明日お話します。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP