文月ブログ

森と生きるために-広葉樹の森の生かし方

12月の上旬、旅行会社の知人の紹介で、高松市の塩江町でFAMツアーに参加してきました。FAMツアーはFamiliarization(ファミリアライゼーション) :慣れ親しむ、から来る言葉で、観光地が商品造成や誘客のために専門家や人気インフルエンサーなどを招待して実施する視察ツアーのことです。私自身はとうてい専門家とは言えませんが、旅行会社に長くいて、ボランティアで自然ガイドをしていた経験、そして森林や林業の世界を巡り、生活者との橋渡し役を務めたいというポジションが面白いと呼んでいただいたのでしょう。

羽田から高松空港に降りる際、晴天の窓外には数十の大きなため池が見えました。太平洋からの雲は山地にぶつかって徳島県側で雨を降らせ、乾いた風が吹き下ろすため、高松は雨の少ない土地です。塩江町は古くから高松市と徳島・高知を徒歩で結ぶ交通の要衝であり、山深く水資源が豊富なことから、高松の奥座敷として多くの旅館が立ち並ぶ場所でした。しかし移動手段の変化やバブル崩壊後の観光産業の衰退などにより人口が減少し、2005年に高松市と合併して今に至ります。

地域の野菜と独特の食文化を生かしたランチや、特産のアマゴやシシ肉を野外の焚火で調理する「いろりんぐ体験」など、FAMツアーの内容は非常に充実し、推進者の志と熱意が感じられるもので、これから着実に商品化されていくでしょう。私が今回考えたことは、町をとりまく山林の活用についてです。

塩江町に入って周囲の山林を見回すと、人工林が少なく広葉樹林が広がっていることが目を惹きました。仕事上、普段訪れる場所は針葉樹人工林の多い地域がほとんどなので、これほど広葉樹の山が続く景色を見ることは稀です。この地域は湯治場として知られていましたが、湧き出るのはお湯ではなく冷泉水なので、それを沸かすための燃料としても、高松市に供給する薪や炭の産地としても、広葉樹が重視されたのでしょう。しかし今はほとんど手をつけられない、「放置薪炭林」になっています。また昔は竹皮の生産が産業として成り立っていたそうですが、今は放置された竹林が広がって広葉樹林を侵食しつつあります。

塩江町には熱心に活性化に取り組む若い人々(今回のFAMツアーを企画)と、それを応援する支援者がいて、町の将来について様々な議論をし、計画を着実に実行しています。彼らは森林組合や自然エネルギー関連のコンサルタントと連携し、町の周囲の山林をバイオマス燃料などに活用する道を探っていました。

(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会が作成した「旧薪炭林の燃料等への活用」という資料によると、日本の民有広葉樹林のうち、保安林などの制限がなく伐採可能な林地は474万ヘクタール、幹材積の平均は209㎥/haで、推定蓄積量は15億㎥だそうです。

主な樹種はコナラ・クヌギ・ミズナラ・カシ・シイなどで、スギやヒノキなどの針葉樹と比べ、含水率が低くて密度が高いため、燃料として優れていると言えます。しかし問題は、燃料用の木材生産だけでは伐採・搬出の経費を賄うのが難しく、CO2吸収・固定を進めるカーボンニュートラルの観点からも問題があることです。やはり、家具やフローリングに使える部分を最大限活用し、残った皮や枝葉を燃料にするという事業を目指していくのが理想でしょう。しかし、言うは易く行うは難しです。広葉樹を活用している地域の多くは、林業が盛んで針葉樹の伐採のついでに広葉樹が伐られて出てくるパターンや、大きな製紙工場があり、主としてその供給のために伐採されているケースがほとんどです。広葉樹は重心の見極めが難しく、針葉樹よりも伐倒に危険が伴う上、曲がりが大きくてハーベスタ・プロセッサの送材機能が使えないので、グラップルソーが適しているそうです。針葉樹中心の施業とは違う手間やコストがかかり、仮に生産ができたとしても、販路の開拓などを新規に行う必要があります。

塩江町では、上記のような理由から、まずは今できる範囲で燃料用チップの生産に着手し、整備中の歴史資料館を兼ねた建物などで使用して、徐々に用途や生産量を増やしていく計画のようです。私からは、せっかく多様な広葉樹のチップが生産できるなら、燻製料理やその体験を売りにしては、という提案をしました。

広葉樹の多くは切り株から発芽して育つ「萌芽更新」により、針葉樹のように苗を植えなくても天然更新していく期待が持てます。更に、ドローン等による撮影画像から価値の高そうな大径木を捕捉し、それを伐採するといった効率化も可能でしょう。木材加工技術が進歩し、さほど大径・通直でなくても張り合わせて付加価値を高める方法も出てきているようです。昔から人々が利用してきた森を、もう一度身近に、富を生むものにする試みを、これからも応援したいと思います。

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