文月ブログ

森と生きるために-小さな掌の応援

先日、千葉市内で行われた2×4(ツーバイフォー)工法のアパートの上棟現場で、敷地の隣の高台から作業を見守り、懸命に両手を叩き続ける小さな男の子に出会いました。アパートの土台の近くに横付けされたクレーンが木製の大型パネルを吊り上げ、良く晴れた青空をふわりと舞うように移動させ、所定の位置に降ろしていきます。5~6人の大工さん達がキビキビと動き回り、位置を確認しては、慣れた手つきで釘を打って固定する様子を見ていると、頭上から「パチパチ」と手を叩く音が聞こえてきました。見上げると、4~5歳くらいの男の子が作業に見入って、何度も手を叩いています。アパートの敷地に入る手前から続く緩やかな坂道を上ってみると、そこからはアパート建設の様子が手に取るように見えました。高台の縁には低いコンクリートの壁が巡らされ、その上にプラスチックのフェンスが設置されています。男の子はそのコンクリートの上に立ち、フェンスとの隙間に足を挟んで体を固定しながら、身を乗り出して手を叩いているのでした。

その様子にピンと来た私は、その子に「応援しているの?」と尋ねてみました。すると彼はチラッと私の方を見てコクンと頷き、再び工事現場に視線を戻します。そして何度も手を叩くのです。彼が生まれて物心ついて以来、世の中にはコロナが蔓延し、スポーツ観戦でも声を出しての応援はできなかったはずです。ひたすら手を叩く、それが彼の知る、頑張る人にエールを送る唯一の方法だったのでしょう。途中、コンクリートの壁をつたう二匹の蜘蛛を見つけ、「クモ」と指さしてそれをしばらく眺めてもいました。子供のいない私ですが、小さな男の子が動くものに心惹かれる様子は何度も目にしています。けれど、建設現場で働く人々を応援する拍手というのは、初めての経験でした。

いえ、働く人というよりも、彼の目には、クレーンが自在に動き、重たいパネルが宙を舞い、それを人々が次々と固定して、何か大きなものが組み上がっていく、その全体が魅惑的に映ったのではないかと、私には思えます。建築に携わる人の多くが、子供の頃に建設現場で遊んだとか、建築の様子を見て心惹かれたという経験をしているようですから、あの男の子もいつか、そういう道を選んでくれるかもしれません。

30分ほど経つと、男の子は「さよなら」と言って路地の向こうに去っていきました。休憩時間に大工さん達にその話をすると、何人かはその子に気付いていて、自分達への応援だと知り、嬉しそうでした。このアパートは国産の杉材を多用し、日本で初めて2×4パネルにサッシを付け、それを在来木造用のパネル製造ラインで作るという、いくつもの挑戦が詰まった建物です。この現場では、通常交わる事のない、在来木造と2×4の大工さん達が一緒に仕事をしてもいました。もしかしたら、あの子は未来から来た使者で、そのやり方でいいよ、頑張ってね、と私達の試みを肯定してくれたのかもしれない、そんな思いが頭に浮かんできました。あなたに恥ずかしくない仕事を、そして日本の森を必ず宝物にして遺すからね、そんな誓いを胸に、私は現場を後にしました。

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