2010年7月に、「林業女子会@京都」という任意団体が設立されました。京都大学の学生さんが中心となり、林業に従事する人や関心のある人など、女性同士が集まって楽しく情報交換やイベントを行い、ネットワークを広げていこうとする会でした。林業女子会@○○という命名は、他の地域に住む人に、自分達もやろうという意欲を掻き立てる、素晴らしい仕掛けだったと思います。すぐに林業女子会@静岡、林業女子会@岐阜、といった会が各地に立ち上がり、HPによれば全国24組織にまで広がったようです。
翌年だったか、国産材ビジネスセミナーで知り合った女性達の間で、東京でも是非という声が上がり、私と3人の大学院生で会を発足させたのです。ただ、当時設立されていたのは主に林業地で、何らかの形で林業に関わる人が参加していました。東京ではそのような人がいないこともあり、遠慮と自己成長の願いを込めて、「なえどこ林業女子会@東京」という名前をつけました。
月に2回程度、集まって情報交換や議論をし、知人の材木屋さんに講師を依頼して勉強会も開催しました。少しずつメンバーも増え、実際に森林整備を行うフィールドを確保したいと、千葉県市原市の森林ボランティアグループとの連携を模索しました。チェーンソーの扱い方などはきちんと教えてもらいつつ、自分達の好きなように森を整備して使って良いという話だったと思います。
しかし、この後非常に残念な出来事が起きて、私はこの会を退会しました。大学院生の二人があるテレビ番組に出演したことをきっかけに、私達が一般の人向けに林業の現場を体験するイベントを実施し、その様子を撮影してテレビ放映することになったのです。これは完全に、番組撮影のためのイベントでした。私は安全を考慮し、参加者が実際にチェーンソーを手にするとか、ましてや木を伐採することには強硬に反対しました。それでも良いという条件で参加者を募集し、イベントを行ったのです。しかし当日行ってみると、彼女達は番組ディレクターにそそのかされ、協力してくれた素材生産業者とも事前に打ち合わせて、チェーンソーによる丸太切りを準備していました。そして希望者には山に行って実際に木を伐らせるというのです。この状況を私一人で止めることはできませんでした。せめて事故が起きないように安全管理をしようと、私は必死で走り回りました。しかし今思い出してもゾっとすることに、髪を長く垂らしたままの女性がチェーンソーを握り、素材生産業者の従業員もそれを止めようとしません。私の静止は間に合わず、彼女は丸太を切り、その様子をテレビカメラが撮影していたのです。回転する刃物を扱う時、服装の乱れは死に直結します。そんな危険を冒して「絵になる」動画を撮影しようとした番組関係者、素人に簡単に伐倒をさせる素材生産業者、私に嘘をついた二人の学生、思い出すと今でも胸が疼きます。
後日、その動画を番組で使わないようにと、私はディレクターと何度も電話で交渉しましたが、聞き入れられず、その場面は放送されてしまいました。全国のまともな林業従事者や、安全管理を徹底して体験イベントを行っている団体に対し、私は恥ずかしく申し訳ない気持ちで一杯でした。そしてもし事故が起きていたら、一人だけ社会人の私が全て責任を負うことになったでしょう。もう何を話しても無駄だと、私はメンバーと完全に連絡を絶ちました。大人気ない態度であったかもしれません。その後、熱心な参加者の加入もあり、会のメンバーは前述した市原の森で、地道に活動を続けていたようです。
あの頃、林業女子会を通じて得た女性同士のつながりは、理屈抜きに楽しく、自分達にも何かができるという自己肯定感に満ちた時間をもたらしてくれました。それを否定するつもりはありません。各地に広がった林業女子会は、今でもそれぞれ独自の活動や交流を行っていることでしょう。男性・女性という括り自体が古くなってしまった昨今ではありますが、柔らかで瑞々しい感性を生かして、森を巡る素敵な体験を多くの人と共有し、価値あるネットワークを発展させて欲しいと思います。
文月ブログ
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