文月ブログ

森と生きるために-森林列島再生論への道②「承認」

佐伯レポート
佐伯広域森林組合で見たかったこと、それは皆伐後の再造林が本当に100%実施されているのか、ということでした。林野庁が毎年発表する「林業白書」でも、再造林は全国的に見て3~4割しか実施されていないと書かれています。理由は、材木の価格が安すぎてコストを捻出できない、シカの食害のために植えても育たない可能性が高い、など様々です。しかし佐伯では、不適地を除く伐採跡地を100%再造林していると聞いていました。佐伯に行ってそれを自分の目で確認し、なぜ可能なのかを知ろうと詳しく話を聞くうちに、私の目に、組合全体に浸透したある何かが見えてきました。組合長の戸高氏が掲げ続けた「再造林」の方針と、今山参事をはじめとする人々が多額の投資をして製材に挑戦し、塩地氏の厳しい指導のもとでそれを軌道に載せていったこと、計画どおりに進まない自然相手の仕事から来る寛容さと併せ、失敗を恐れず小さな工夫を積み重ねる姿勢が次第に末端にまで及んでいったこと。私はこれを「佐伯スピリット」と表現しました。
佐伯広域森林組合には、最近では多くの視察者が訪れます。業界関係者がほとんどで、彼らは生産システムや原木の調達・製品の販売先や売上げなど数字に関する質問をし、それを報告していたのでしょう。私のように、人と組織に注目してレポートを書いた人間は初めてだったようです。果たしてどう受け止められるだろうと、不安な気持ちで仕上げた文章を塩地氏と椎野先生にお見せすると、お二人はそれを肯定的に評価してくださいました。何より嬉しかったのは、佐伯の人々が私の書いたレポートを喜び、コピーして従業員の皆様に配布したと聞いたことです。恐らく、自分達の仕事に自信を持ちながらも、利害関係の無い第三者に褒められたことは、彼らの中に新たな誇りを呼び起こしたのでしょう。そのような経緯で、出版社の皆様はようやく、私が書籍に関わることを承認してくれました。

「森林連結経営」という言葉
木造大型パネルは受託加工で、施主が望む材料を使います。そして、高い精度の寸法安定性を必要とするため、無垢でなく集成材が基本とされています。そんな大型パネルを、どうしたら国産材とつなぐことができるのか、塩地氏と私はずっと議論を重ねていました。塩地氏が詳しい建築と建材、私が見て来た林業とバイオマス、そんな互いの知見をぶつけ合ううちに、「林業は単独では産業となり得ない、しかし建築をデジタル化し、バイオマスとも連携することで、森林から富を生み出せる」という考えと、それを一言で現す「森林連結経営」という言葉が生まれたのです。当初はそれをそのまま、書籍のタイトルにしようと考えていました。それは叶いませんでしたが、地域で森林を中心とした経済循環を作る、その考え方を現す言葉として、後日設立された新会社の社名となりました。

書名と役割
2021年12月、日経BP社との具体的な打ち合わせが始まりました。その中でベテランの販売担当者から、「本が売れるかどうかの8割はタイトルで決まる」という言葉を聞き、やはり「森林連結経営」ではインパクトが弱く意味も伝わらないという意見が大勢を占めました。全員でアイディア出しや検討を繰り返した結果、決まったのが「森林列島再生論」という書名だったのです。長く放置された森林を宝に変えることで、日本全体を再生させたいという思いが込められた、良い書名だと自負しています。
そして構成の検討では、複数の専門家が各分野の知見を基に提言する、その全体を旅と捉え、私が読者の皆様を案内するという筋立てが浮かんできました。私が大手旅行会社に勤めていたこと、そして16年もの長い間、日本の林業再生のために各地を歩き回り、ようやく見つけた答えを読者に伝えたいという立ち位置が、「森林添乗員」という役割を得たことで明確になったのです。
次回に続きます。

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