文月ブログ

森と生きるために-森林列島再生論への道③「道程(前半)」

日本の森林・林業再生への解決策を示す旅、私が案内するその道筋を、各分野の専門家の皆様に書いて頂く必要がありました。訴えたいのは、木造大型パネルが建築のデジタル化を可能にし、汎用化されつつある林業ICTの技術、そしてバイオマス事業と連携することで、国産材の持つ潜在能力を最大限に引き出せるという提言です。誰にどんな内容の原稿を依頼するのかについては塩地氏の腹案が基になっていますが、そうなった経緯と理由を私なりの視点で記してみます。

林業と建築を結ぶ-高口先生
塩地氏と高口先生は、共通の恩師を通じ、先生がまだ学生でいらした頃からのお付き合いだそうです。ウッドステーション起業後は、高口研究室の何人もの学生さんを受け入れ、論文執筆のサポートをされてきました。二年ほど前からは、塩地氏が主催する仮想木材研究会にも参加され、建築の立場から貴重な意見を述べてこられました。仮想木材とは、大型パネルに入力された施工図から使用する部材を拾い出し、逆算して製材品・丸太にまで戻した木材のことです。つまり設計図書の段階で必要な部材の量を正確に割り出せることを、現実の木材生産に生かせないかという取り組みなのです。更に、高口先生には建築の専門家として、日本の人口動態と資源量の予測、また地産地消が可能な地域と、そうでない都市部のそれぞれにおいて、可能な事業形態やその規模についても試算して頂きました。冷徹な現状分析に基づく大きな未来予想図は、これまで林業の実態を知らなかった多くの建築関係者に、この本の続きを読むモチベーションを与えてくれたのではと感謝しています。

木材と建築生産・情報システムをつなぐ-塩地氏
この章で塩地氏は、そもそも海外から輸入される木材がなぜ優位性を持ってきたのか、また在来の木造住宅がデジタル化できなかった理由は何かなど、漠然と受け入れていた現実を紐解き、「場所メリット」という、国産材が持ちうる最強の価値を実現しようと訴えています。設計図書から逆算して製材・造材を行う方法は、家一棟単位では、コストがかかり過ぎて現実的ではないかもしれません。しかし5棟・10棟とまとめ、それを数か月前に把握できるならば、これまでとは全く違う生産方式が可能になるはずです。いつもは筆の早い塩地氏が、この章を書き上げるのに珍しく苦心していました。その理由は、自社の宣伝にならないように、我田引水を避けて記述するのが難しかったからだそうです。その抑制的な文章の持つ説得力が、書籍全体の信頼性を高めていると思います。

林業と金融をつなぐ-松本氏
3年前に長野で開催された林業機械展、講演を依頼された塩地氏が会場に行ってみると、聴衆はわすか十数人だったそうです。しかし一番後ろの席で、聴きながら熱心に頷く一人の男性がいて、終演後に駆け寄って来られたのが、日本政策投資銀行の松本氏でした。日本の森林・林業の課題に、金融を扱う立場からどのようなアプローチができるのか、深く研究し、模索を続ける中で、木造大型パネルの持つ可能性に気付いたのでしょう。その後も交流は続き、仮想木材研究会にも参加されていました。戦後の拡大造林以降、産業構造の変化に翻弄され、日本の森林の多くが価値の無いものとして放置されてきました。樹木が十分に育った今でも、バランスシートどころか境界線も所有者も不明という、資産の体を成さない状況を憂慮しつつ、それを招いた山主の責任にも厳しい眼を向けています。専門的な用語や概念を噛み砕いて説明されていて、難解ではあっても非常に優れた内容であることは、多くの識者が口を揃えて称賛しています。おっとりして独特のユーモアに溢れる松本氏の素顔、固い文章とのギャップは今後も多くの人を魅了することでしょう。

次回に続きます。

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