文月ブログ

ブナの森の再生②

早く森に戻るよう手助けする。昨日と今日、木島平で行ったブナの移植にはそんな目的があった。新幹線の飯山駅から車で50分程の、カヤノ平という場所だ。昔、村が国有林を借りて牧草地に変え、牛の放牧をしていたが、牛乳の消費量が減って規模を縮小する事態になった。国に借地の返還を申し出たところ、元は森だった場所だから、森に戻す必要がある、つまり原状復帰を求められた。300年生の木を生やせとは言わないが、少なくとも森と呼べる状態にしないと契約を解除できず、村は今も賃料を払い続けている。
牧草地には時間が経っても全く木が育たない。困った村からの依頼で長野県職員の小山さんという方が調査したところ、繁殖力の強い牧草の根や枯葉が分厚く積もり、樹木の種が落ちても発芽できないことがわかった。小山氏が試しに表土をはがしてブナの稚樹を植えると、そこでならしっかり成育する。表土をはがすのもお金がかかるので、2mほどの間隔を空けて、50㎝くらいの幅で表土を取り去り、そこに近縁に生えているブナの稚樹を移植する。それを様々な企業や団体の協力を得ながら行ってきたそうだ。ブナは初期成長がとてもゆっくりで、4~5年経っても背丈が10~15㎝にしかならない。動物に食べ尽くされない大量の実をつけるのは50年ほど経ってからで、種を落とす範囲は周囲30m程度、つまり自然に任せるだけでは数百年かかるところを、人間の手で早めようという試みなのだ。
森に戻しさえすればいいのなら、表土を筋状にはがすだけで、カラマツの実生が勝手に生えてくる。今回の作業地にも自生したカラマツが沢山あり、それはそのままにしてブナと混植している。しかしそれだけでは、表土をはがす経費を負担してもらうための美しいストーリーにはなりにくいのだろう。ブナの稚樹をスコップで掘り取るのは体力が要る。それを箱に入れて植栽地に運び、穴を掘って埋め、踏み固める。そんな作業に夢を感じて多くの人が参加するのは、ブナの森という言葉に人を惹きつける力があるからだ。
楽しく意義深い作業を振り返りつつ、同時に広葉樹と針葉樹に対する人々の心の温度差に少し複雑な気持ちを抱きながら帰途についた。

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