文月ブログ

林業ビジネスチャレンジ-渡良瀬林産とエヌケーケー①

「綺麗な工場だな」それはつい先日、栃木県佐野市にある渡良瀬林産を訪ねた時、最初に受けた印象です。そして、敷地内を全て案内された後には、それは印象ではなく、正確に特長を表す形容詞に変わっていました。黒と赤に塗り分けられた、モダンな設備、それは単に新しいから、というだけではなく、見学者に赤は危険な箇所と知らせるための、「見せる」工場である印だったのです。近代的で清潔な工場は、5月に訪れた紀州の「YSS(Yamcho Smart Sowmill)」などもそうですが、ここまで「魅せる」工場となると、正直、他には思いつきません。
敷地内には原木置き場から製材棟・乾燥機・製品棟などが効率良く配置され、動線を考え抜いた、無駄のない施設になっています。最初に驚いたのは、木材の選木を、皮をむいた状態で行っていることでした。普通、選木機の周囲は剥がれた木の皮や舞い上がるホコリにまみれ、それを少しでも抑えるために、大量の水を撒く様子も目にします。しかしここでは、アスファルトの地面に、わずかな木くずが落ちているだけでした。皮をむくので、選木の精度は高まりますが、原木を持ち込む業者からすると、材積や品等が本当に正しいのか、疑いたくなります。信頼関係が無いとできないことだと、責任者の飯塚専務は仰っていました。
この会社は、2016年に、渡良瀬川流域の木材を生かし、山の維持管理と、製材から住宅建築、街づくりまでを繋げようとする企業グループの一つとして設立されました。私達が見学に訪れた際も、流域の見事な原木が、トラックから降ろされ置き場に積まれていました。渡良瀬川流域には、人工林が約90,000ヘクタール、蓄積量は約1,500万㎥もあり、古くから良材として知られていたそうです。それを生かし、荒廃した山をよみがえらせようと、地域密着型で、誰でも見学できる、この工場が作られました。無垢材の生産には、四方背割りという、乾燥時の応力を逃がして内部割れを少なくする技術が使われています。他にも端材は再集成化、チップは製紙、おがくずは畜産、木の皮はボイラーの燃料と、全てを利用する最新鋭の工場です。建屋は地域材を使った木造で、年間約13,500㎥、住宅にすると約1000棟分に相当する製材品を生産しているそうです。
渡良瀬林産で購入した原木のうち、質の良いA材は製材品になりますが、B材はラミナ(ひき板)に加工されます。それを使って集成材を作っているのがエヌケーケーです。山から出る木材のうち、そのまま製材品にできるのは普通3分の1程度ですが、B材を集成材に加工すれば、それも建築部材として高く売ることができます。更に、渡良瀬林産や近隣のプレカット工場から出る端材を引き取り、フィンガージョイントという技術で継ぎ合わせることで、徹底的に再生産を行っています。費用対効果から、あまりに短いものは製紙用のチップになりますが、それも約10センチ以下のもののみだそうです。
次に驚いたのは、両社の役員を兼ねる飯塚専務が、市況を見ながら、無垢の柱にできる材でも、ダブつくと思えばラミナにひき割るという話でした。新規住宅着工が減ると、柱は買い手がつかなくなりますが、間柱や集成材に加工すれば売れると言うのです。むしろA材から作るので、歩留まりも強度も高い製品になるそうです。私がこれまで見て来た製材業者は、木材からいかに価値の高い製品を作るかを考えても、それがいつ売れるのかは意識しない場合がほとんどでした。在庫を限りなく圧縮し、「売れるものしか作らない」その姿勢は一体どのようにして生まれたのでしょうか。
明日に続きます。

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