2020年の7月に大水害に襲われた人吉市は球磨川の中流域、今回の地震で大きな被害を被った八代市は球磨川が海に注ぐ場所にある。熊本県は林業が盛んで、2023年のスギの生産量は615千m3で全国5位、ヒノキは280m3で全国一位を誇るが、残念ながら、全国的な傾向と同様、再造林が追いついていない。熊本県の中でも特に球磨地域はそれが顕著で、2023年の時点で0.5ha以上の造林未済地は約340ha(141カ所)にのぼると言う。そんな状況を何とか改善しようと、安定した役所勤めを辞め、自ら造林会社を興したのが、合同会社木人舎(こびとや)の代表社員、椎葉博紀氏だ。
人吉市役所では林業の仕事をしていた訳ではなかったが、水害の対応に追われる中で、子供の頃から見てきた、山仕事をする祖父の姿や言葉が強く思い出されたそうだ。山が荒れれば水害は繰り返される。高性能林業機械の普及で伐採の効率は上がったが、人手のかかる造林をやる人がいないというなら、自分が引き受けようと考えた。そうして彼は林業大学校や鹿児島大学の先生にも学び、造林のスマート化を掲げて2023年に起業した。担い手がいなくて困っていた業界なので、仕事は次々に舞い込む。苗木やシカ柵資材を運ぶ大型ドローンを導入し、若い働き手を雇用して、業務は順調に拡大していった。
そんな中で彼が当惑したのは、植えてくれる人がいるからと、却って伐採に拍車がかかる事例が見られた事だ。原木の価格は安く、伐採事業者は高額な機械にかけた投資を早く回収するために、少しでも多く伐りたい。造林未済地を減らし、森を復元するために起業したのに、このままでは逆効果になりかねない。更に補助金に頼った造林事業だけでは、若者達の将来にも不安が残る。そんな折に「森林列島再生論」を読んで出会ったのが、ウッドステーションの塩地氏だった。建築の専門家がいなくても、地域の材を使って建築部品を製造し、木材の価値を上げることができる。そのツールを山側の人々が持つことで、国際相場に左右されない利益を確保し、山で豊かに暮らし続ける道が拓ける。
椎葉氏は球磨中央地区林業活性化協議会に働きかけ、林野庁の「デジタル林業戦略拠点構築推進事業」に応募し、採択された。2年をかけて地域の林業のDX化を進め、将来的に木造建築まで一気通貫でつなぐための基盤を整備していく予定だ。
地域に森林直販工場ができたとしても、製造できるのは年間100~200棟程度、1棟20m3として製材歩留まりを考えると、A材で4,000m3~8,000m3、この地域の生産量から見ればわずかな量に過ぎない。しかし、1haで100万円程度でしかない立木を、仮に3倍の値段で
買ってもらえるとしたら、すぐに伐る必要は無いと、山主の意識が変わる可能性はある。伐採事業者の言い値で一山全部を伐ってしまうような行為を思い留まり、子や孫に継がせようと思う人も出て来るだろう。
「ここも自分達が植えるんです」そう言いながら、見渡す限り広がるはげ山を前に、その果てしなさと闘い続ける椎葉氏を支える、それが球磨川流域に生きる人々を助けることにつながると信じて、私はこれからも見守っていきたい。
文月ブログ
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