せっかく県を上げてスマート林業を推進し、微地形図の公開も実現したのに、企業がいざそれを活用しようとしても森林の所有者がわからない。所有者はいても境界がはっきりしないので伐採できない、そんな声を聞いた。今年の4月から土地の登記が義務化されるが、これまでは任意だったため、お金にならない山林は捨て置かれて、九州ほどの面積が所有者不明になっている。
市町村が、土地の所有者や境界の位置・面積などを調べて確定する地籍調査という制度があるが、その進捗率は都道府県によって大きく異なる。国交省のHPによると、木材生産量上位の8道県は、青森の93%を筆頭に、岩手86%、熊本85%など、最も低い福島でも60%となっている。地籍調査が進んでいるから森林の活用がしやすいのか、森林がお金になるから地籍調査が進んだのか、どちらが先かはわからないが、関係があるのは確かなようだ。一方、微地形図をオープンデータ化している、生産量が中位クラスの県は、高知の59%を除き、岐阜18%、栃木・静岡が25%、兵庫が30%など低い状態にあり、冒頭の例のようにデータの有効活用を阻害する要因になっているかもしれない。
多くの市町村や委託を受けた森林組合、民間事業者が境界確定を進めており、そこでは航空測量のデータも活用されている。しかし事業のペースについて聞いてみると、境界の確定には一か所に何年も要し、5人~10人の班で一年間に確定できる面積は20~50㏊程度だそうだ。このままでは100年かかる、と自嘲気味に話してくれた行政官もいた。
航空測量やモバイル計測による境界線の案を付近の写真と共に所有者に示しても、昔自分が手入れをした経験のある高齢の所有者は同意しないことが多いと聞く。思い入れが強く、数十年経てば地形も樹木の繁り方も変わるので、記憶と違うと感じるのだろう。一方で代替わりした所有者は、山奥に自ら足を運ぶことなくお任せしますという傾向が強いそうだ。
日本では私有林の約7割を1㏊未満の所有者が保有しており、その数は150万戸とも言われる。現状のやり方では、山林の調査は永遠に終わらないかもしれない。地形や林相、森林簿や固定資産台帳のデータをAIに読み込ませ、一定の合理性を持った境界線を決定する、異議のある人は明確な根拠を示して修正を申請する、そんな方法が採用されればいいと思う。そして十分な管理能力を持つ人以外は、原則として地域の森林組合や林業事業体に森林を信託し、持ち分に応じて収益の分配を受ける方式になればいい。
しかしそんな理想の実現はまだ相当先のことだろう。今はまず、業務のデジタル化が省人化や品質向上に役立つ事例が生まれ、浸透していって欲しい。それは建築のデジタルデータとつながることで、近隣の木材需要を取り込み、林産加工の付加価値が外に逃げることなく域内を豊かにする好循環を生み出す。所有に拘るより、利用に道を拓く方が利益になる、そうなって初めて所有の壁は障害でなくなっていくのではないか。デジタルが森林を土地から自由にし、将来世代への贈り物に変えていくだろう。
文月ブログ
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