林業の労災保険料率は全産業の中で最も高い。毎年、厚生労働省が発表する料率のリストを開くと、一番上に林業の60という数字が表示される。1,000分の60、つまり6%だ。他の産業を見ると、鉱業や建設業の一部の事業ではそれを超える率があるが、産業全体では断トツに高い。農業は1.3%、危ないように感じる漁業でも1.8%~3.8%なので、林業のリスクの大きさが際立つ。一方、卸・小売り・飲食などは0.3%、通信・出版・金融・保険等は0.25%という低さで、仕事で怪我をしたり亡くなったりすることが滅多にないことを表している。
これは人を雇うコストに大きな影響を与える。例えば飲食店で働く従業員に20万円の給与を支払うと、料率が0.3%なので雇い主は600円の労災保険料を負担する。これが林業の場合、20万円に対して何と12,000円もの保険料を支払わなくてはならない。仮に林業がもっと安全な産業になれば、同じ仕事に対して10,000円近く賃金を上げる余地があるとも言えるが、ここ数年の死傷者の数は横ばいで、現実は厳しい。
世間では、フリーランスの人達が労災保険にも入れず、仕事中の怪我に泣き寝入りするケースが社会問題になっている。そんな中、熊本県のある森林組合では、素材生産や造林に関わる請負業者、いわゆる一人親方をまとめて保険組合を作り、約120名の人々の保険料を一部負担しているそうだ。最近では、その親方達が皆伐した跡地に、組合が全て再造林するようになった。お互いの信頼が良い協力関係を生み、地域の森林の維持につながっているようだ。
熊本県ではTSMC(台湾積体電路製造)の半導体工場が建設中で、稼働すれば多くの若い働き手がそちらに流れると危惧されている。国の製造業を支える工場の成功を祈りつつ、危険な作業に従事する一次産業の働き手を守ろうとする、この組合の努力が報われて欲しいと思う。
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