文月ブログ

樹木に蓄積された時間

樹木は時間の貯蔵庫だ。巨木の年輪には過去の気象や災害の影響も刻まれている。成長するのは樹皮に近い部分だけで、古い細胞は形を留め、育った時の環境や状態を映す記憶媒体のようだ。私たち動物の体は逆で、古い細胞が死んで新しく生まれ変わり、常に置き換わっている。分子生物学者の福岡伸一氏によれば、分子レベルでは、半年前の自分と今の自分は別人と言って良いほどだそうだ。かつて自分の体を構成していた蛋白質もカルシウムも、今は違う物質に姿を変えて世界中に散らばっている。輝く海を見た翌日、近海でとれた魚が食卓に上がったら、昨日の景色の一部が自分の体になるということ。反対に、自分が排出したものが、いつか自分を取り巻く環境になっていく。石油や石炭は太古の植物の死骸だ。地球は長い時をかけて閉じ込めた不要物を掘り出され、燃やされて熱くなっている。ある意味、日本では使い続けた化石燃料の代わりに、森林が膨大な時間を蓄積してくれたとも言える。例え質が悪かろうと、そこには炭素という名の時間が詰まっている。だから乱暴に扱わず、伐る前に良く考え、伐ったら植えて育てることだ。失われた時間の代償に、子供たちの未来が消え去ることのないように。

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