文月ブログ

森と生きるために-マスメディアの役割

先日、大型パネルで伝統軸組工法のプレファブ化を進めるウッドステーションに、テレビ局の取材が入りました。撮影クルーの到着が予定より遅れ、たまたま打ち合わせで訪れていた私は、少なくなった社員の埋め合わせとして、その場所に居続けることになりました。金具とピンが打ち込まれた柱のサンプルを指差しながら、知人と会話しましたが、カメラが別の方向を向いている時には、取材陣の動きを目で追っていました。
様子を見ていると、開発者の塩地氏は、テレビのディレクターに情報処理の画面を見せて、木造大型パネルがなぜ国産材の救世主になり得るのかを説明しているようでした。設計確定時に必要な部材の詳細がわかる事、そこから逆算して角材や板を生産すれば、木材を無駄無く使い、その価値を最大化できる事を伝えているのです。しかし、今はまだそこまで情報がつながり、伐採から製材、乾燥までの生産に生かせている訳ではありません。あくまでも理想に過ぎないのですが、それでもこの技術が、山と建築を結ぶハブとして機能し得ることは誰にも否定できません。
日本の林業は、木材価格の長期低落、所有者や境界線の不明、その結果もたらされた放置による資源としての劣化、従事者の減少と高齢化など、幾重にも重なった負の要因に絡め取られ、何をしても決定的な改善に繋がらない悪循環の中にあります。しかし、建築やバイオマスと繋がり、資源の価値を高める技術が生まれた事で、生かし方によっては大きな富を生む可能性が出てきたのです。
そしてそれは、より多くの人に情報が届く事により、周辺の課題を埋める新たな技術革新を誘発します。これまでの技術の延長ではない、革新的なものほど、そこにマスメディアの果たす役割は大きいと言えるかもしれません。と言うのは、インターネットは内包されたアルゴリズムにより、見ている人の関心を引くような情報を自動的に表示するものだからです。林業・木材・建築、バイオマス、それぞれの業界内のニュースに触れる機会はあっても、複数の産業をつなぐことにより、大きな価値を生む可能性のある技術というのは、必ずしも上位に表示されるとは限りません。しかもネットニュースや個人の発信は玉石混合で、信頼性にも疑問符が付きます。
更に、産業界で実際に決定権を持ち、会社を動かしている人の多くは、ネットサーフィンをしている時間などありません。取材や検証に時間をかけ、一定の信頼のフィルターを通した情報の方が、役に立つ技術を持つ会社の関係者に、ピンポイントで届く可能性が高いかもしれません。
取材チームは来週、ドローンによる山の詳細な資源情報解析を行う会社に向かうそうです。山の資源情報と建築データが連携した時、一体何が可能になるのか、それを視聴者に明快にイメージさせて欲しいものです。優れた情報番組は、「それならうちのこれが使える!」とか、「この方法なら地域の山を生かせる!」といった驚きや発見を、それだけに留まらず、具体的な行動にまで移すことを促すものでしょう。
長時間に及んだ取材ですが、番組で使われるのは恐らくほんの数分です。しかし、彼らの真剣な探求心と、それを視聴者に伝えるための努力を目の当たりにして、私自身も、彼らの背中を押したい気持ちになりました。

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