文月ブログ

森と生きるために-変化への対応

林業や木材業の現状について、深く知ろうと調査を進めると、数年前、時には半年前の事実が今では大きく変わっていて、驚くことがあります。企業名はそのままでも業態が全く異なっていたり、昨年まで原木の3割を県外から購入していた製材工場が、今ではほぼ地域材で需要を賄えるようになるなど、ウッドショックの影響もあってか変化の早さに戸惑います。これは恐らく他の業界にも言える事で、殊にコロナのため、飲食や観光に携わる人々がどれほどの苦労を、変化を強いられているのかは言うまでもないでしょう。一方で、林業は樹木という、数十年かけて育てる生命体を相手にする仕事です。移設もできず、台風や虫の害にも耐えなくてはなりません。変化の激しい社会経済活動とのタイムラグを誰がどう埋めていくのか、林業家と呼ばれる人々がずっと頭を悩ませてきたことでしょう。
樹木は、その幹に歴史を記録し続ける生命体です。枝のあった場所は節として、枝打ちの痕は表皮に、ずっと残り続けます。日照時間や気温によって生育に差が生じ、年輪と気候を照らし合わせて生育年代を割り出す方法があるほどです。移動できない分、光合成によって合成した有機物で堅い組織を作り、虫の害があれば揮発性の毒を発して、忍耐強く生きようとします。その樹木を人間は利用し、役に立つものを植えて増やし、形質の良いものを選んで育て、助け合って繁栄してきました。
そして穀物や家畜と同様、人が植えたものは、人が手をかけてやらないとうまく育つことができません。数十年の間、手入れされずに放置された林は、今から間伐をしても残った木の肥大成長が望めないことがあります。あまりに混み過ぎて、幹も根も十分に発達することができず、周囲の木が無くなると簡単に風で折れてしまうのです。間伐は、木が切られて空間ができ、そこに他の個体よりも先に枝を伸ばして葉を広げる、そんな変化への対応を若木に迫ります。同じ母樹から採る挿し木苗の場合、生まれ持った形質に大きな差はないはずですが、わずかな環境の違いと、この競争に勝つか負けるかで、次第に大きな成長量の差が生まれます。動かない樹木も、実は変化に対応し、厳しい生存競争を戦っているのでしょう。
そうしてようやく丈高く育った樹木を、細いから、曲がっているからと簡単に燃やしてしまうことが許されるのでしょうか。需要情報から逆算してできる限り製材品として使うことを可能にする技術。それがあれば、樹木は使われる間際まで山で成長を続けることができます。この技術こそ、木が育つのに要する時間の長さと、変化の激しい社会とのタイムラグを埋め、どんな環境変化に対しても、最も高い適応力を発揮させる鍵ではないかと私は考えています。

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