NHKのBSで、アメリカでビンテージギターを取り扱うバイヤーを追った特集番組を見た。ギブソン社が1952年に初めて世に出したレスポールや、1954年にフェンダー社が発売したストラトキャスターなど、ロック黎明期のエレキギターが、状態が良ければ4,000万円もの高値で取引されている。鑑定のために本体の一部を取り外すと、そこには当時の木工技術者の名前が書かれていたりする。レスポールの本体表面はメイプル(カエデ)、裏やネックはマホガニー、ストラトキャスターの本体はアッシュ(ヤチダモ)やアルダー(ハンノキ)、ネックはメイプルという風に、各社はそれぞれ音質に加え、材料調達や加工歩留まり、ユーザーの希望などを考慮しながら様々なモデルを発展させていったようだ。1952年と言えばまだ80年も経っていない。意外と最近だという気もするが、使われた木の寿命を含めれば150年を超えているだろう。
楽器でビンテージと言えばストラディバリウスが頭に浮かぶ。こちらは美術品としての価値も加わり、高いものは十数億円に跳ね上がる。知られている中で最も初期のものは1666年製で、300年前の楽器が現在でも珍重されている。ストラディバリ親子が二代で作った1,300挺のうち約600挺が残っていて、多くがコンサートなどで実際に演奏されていることに驚く。使用された木材は表面がスプルース(ドイツトウヒ)、裏面がカエデの仲間のシカモアという木だそうだ。ヨーロッパは14世紀から19世紀頃、小氷期と呼ばれる寒冷な気候で、木材の成長が遅い分、目が詰まった良材が採れたと言われている。500年近く経った木が艶やかな音色を響かせる空間に居合わせたら、きっと体の奥底まで震えるだろう。
古さで言えば、歴史の教科書に出て来る「螺鈿紫檀語源琵琶(らでんしたんごげんびわ)」は日本に渡来したのが約1,300年前とされている。聖武天皇に愛され、死後正倉院に収められた宝物だ。弦を張る腹板は三枚剥ぎで、ヤチダモ、クリ、ハルニレなどの可能性があるらしい。最も大きな共鳴胴は紫檀の一枚板で、この大きさの製品を作るには、高さ76㎝、幅36㎝、厚さ11㎝前後の板が必要だとされる。しかも紫檀は乾燥に時間がかかり、30年(!)を要するそうだ。この琵琶の材は、地上に生まれてから1,400年以上、性質を保っている。法隆寺の木には及ばないかもしれないが、楽器もまた長い年月、人に寄り添う木材だ。
楽器になるのは、極めて優れた材質を備え、丁寧な伐採、目利きによる選別、長い乾燥期間を経て腕の良い職人と出会うなど、全てが奇跡的に整った選りすぐりの木だけだ。長い命を得るものには使命がある。共に育った仲間たちがとっくにこの世から姿を消しても、彼らは命を奏で続ける。
ジョン・デンバーは、12歳の時に祖母から古いギターをもらった。1910年製のギブソン社のジャズギター。もしそれがなかったら、受験勉強をしながら「鷹と鷲」や「ロッキーマウンテン・ハイ」を何百回も聞くことがなかったら、私はこれほど森に引き寄せられていただろうか。
楽器になる木は、生物としての命を終えた後も、込められた想いが時を超えて生き続けることを私達に教える伝道者だ。乾いた秋の空気の中でその響きに耳を澄ませば、遠い過去から歌い継がれた樹木達の生への賛歌が聞こえてくるような気がする。
文月ブログ
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