文月ブログ

労働者の現場対応力

家を建てて24年目の昨年は、リビングのエアコン、トイレ、化粧台の水栓、冷蔵庫と住宅設備・家電の交換が相次いだ。その延長で19年使ったテレビが壊れ、先日買い替えをした。一昨年以前に大きな家電の交換をしたのは7~8年前の洗濯機。12年前に同じリビングのエアコンを替えた時も、一人は補助員のような立場ながら作業員は二人で来ていたと思う。しかし最近の家電の設置はほとんど一人が基本のようで、性能の向上で大きく重くなったエアコンの室外機を3階まで運び上げる職人さんの姿には胸が痛んだ。その人が承知の上で引き受けたなら構わないが、私自身が店頭で、螺旋階段を上がった戸建ての3階だとしつこく念を押したのに、職人さんがそれを知らなかった事に憤りを覚えた。さすがに冷蔵庫は二人がかりで入れ替えをしてくれたが、古いテレビもかなりの重さ、しかも専用の台とセットなので、備考欄に詳しく書き込んでもらった。
搬入当日、2トントラックから降りてきたのは一人だけ。私は大丈夫かと不安になった。作業員は丁寧に挨拶した後、まず現場を見せてくださいと3階に上がり、42型のテレビとその専用台を見ると、やっぱりといった顔つきでこう言った。「一人じゃ無理なので、応援を呼びます。」予めそういう指示なのかと思いきや、彼は続けた。「作業組む人が備考欄読んでないんすよ。自分も昨日の夜見たんで。ダメだった時に備えて、近くでやってる仲間に呼ぶかもって言ってあるんで大丈夫です。」
彼がテレビ台の組み立てをほぼ終える頃、同僚が到着し、テレビを持ち上げて下ろそうとしたが、専用台から外れない。私は事前にメーカーに電話をかけ、テレビと専用台を止めるネジを外していたのだが、聞き違えたのか、向こうの誤りか、そのネジではないらしい。すると助っ人の男性が、これだったかな、と過去の記憶を呼び覚ましてドリルでネジを外し、無事に分割することができた。
同じ42型のテレビだが、19年前のものは33キロ、消費電力は345W、今は重さが13キロ、電力は140Wで、エアコンと違い、こちらは随分と軽く薄くなっている。だから一人でも設置はできるけれど、旧型の搬出は場合によっては重労働どころか不可能に近い。それなのに、読まなくても作業配分ができる備考欄にしか情報が入れられないのはおかしいと思わないのだろうか。
作業員の男性は、私がテレビを買った量販店の社員ではなく、協力会社か下請けの会社に所属しているのだろう。同じ社内なら、配送時にこんな問題が起きる、という現場の声がシステムに反映されるか、そういう作業を経験した人が配分を行う部署に行った際、改善しようとするはずだ。仕組みがおかしいと言わず現場で解決する、それに慣れているということは、売る人と届ける人の間に分断があるからだろう。
テレビ本体の軽量化・省電力化には目を見張るものがある。ネットとつながり、ゲームや映画を楽しむ装置としての役割に投資が集まったからかもしれない。しかし寿命の長さもあり、新旧の入れ替え体制がちぐはぐな端境期の空白を、現場の作業員が埋めているのが実情だ。
翻って、林業や住宅産業では、現場の人々の負担を軽くするような技術革新がどれだけ成されているだろう。林業の場合は伐採・搬出の機械化や安全装備の普及があるが、労災は中々減っていかない。住宅建築の現場で扱う部材は重くなり、あるいは嵩が増す一方に見える。日本の労働者の質の高さは世界から賞賛されるが、いつまで現場に負担をかけ続けるのかと不安になる。
伐採現場では量を追うほど危険が増える。林分と建築図書をマッチングさせ、木材を丁寧に扱って高く売るやり方なら待遇も安全性も高まるのではないか。森のすぐ近くで製材・乾燥・加工をし、サッシのような重量物を大型パネルに組み込めば、大工さん達は快適に長く働けるだろう。地域の裏山を資源倉庫にし、森林から取れたての住宅を生活者に届ける、現場で働く人々に理不尽な対応能力を期待しない技術革新が、日本を豊かにしていくと思う。

 

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