文月ブログ

温かい木の家に感じる幸せ

あれ?ポーチで靴を脱ぎ、玄関から室内に足を踏み入れた瞬間、いつも感じる冷たさがこの家には無いと気づいた。足先から全身を蝕む冷えへの不安が溶けていく。なんて温かいんだろう。視線の先には美しい杉の床板に続き、紀州の木材が現わしで使われた心地よい空間が広がる。壁はモイスという建材で、木目とよくなじむ柔らかい白、砕けば肥料として畑に蒔けるほど、環境に優しい素材だそうだ。
山梨県丹波山村には大工さんがいない。住宅を建てるどころか傷んだ箇所の修繕もままならず、古びた家々が並ぶ中に、村が国の助成金を使って三棟の村営住宅を建てた。その昔、村が始めた山村留学をきっかけに最近若い移住者が増え、注目を集める村だが、移住希望者がいても住める家が無いというのが課題だった。村は標高600メートル、周囲を山に囲まれ、冬は3時には日が落ちて暗くなってくる。役場で今回のプロジェクトを取りまとめた矢嶋さんは地元で生まれ育った方だが、「風呂と着替えは命がけ」と真顔でつぶやく声を聞いた。そのくらい。気候に住宅性能が追いついていない地域なのだろう。昼食を摂った近くの古民家は、部屋ごとにエアコンを付け、石油ストーブを焚いていても肌寒い。しかし新築の住宅の中はエアコン一台のみ、それも日が射し始めたらほとんど動いておらず、見学者は暑くて防寒着を脱ぐほどだった。上棟は8月20日と21日、それからわずか4カ月半で3棟が完成するというスピード施工と高品質。しかも外壁には地域の杉材を使い、構造・内装も全て国産だ。今はまだ贅沢な家と言えるかもしれないが、これがスタンダードになっていく未来が見たい。
この家で感じる安心感はどこから来るのだろう?
あまりにも月並みな答えで申し訳ないけれど、私はやはり「木目の優しさと屋内の温かさ」この二つだと思う。室内をクロスで被わないので、木の柱も屋根裏も全てが見え、そのがっしりした安定感と木目の優しさが暮らす人を包み込む。そして大型パネルの施工精度と大工さんの腕が設計者の意図を見事に表現し、シンプルでスマートで、とにかく温かい、見学者が絶賛する村営住宅が出来上がった。
これでいいんじゃない、これがいい、と思わせる「温かい木の家」。今回は主に紀州材が使われたけれど、この家を見て、地元の林業・木材関係者が、自分達で作る方法、その技術が既にあると知ったらどうだろう。地元の木材が何倍もの価値を持ち、住む人に笑顔で感謝される事業に、挑戦してみたいと思わないだろうか。山の人々に行動する勇気を焚きつけそうな、こんなにも、木の家の可能性を感じる住宅を作って下さった皆様に、心からの感謝と労いの言葉を贈りたい。

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