日本では林業がネイチャーポジティブに欠かせない。それをもう少し掘り下げてみる。
日本列島は人と自然の合作だ。縄文遺跡から人々が栗を栽培していた証拠が見つかっているように、日本人は昔から役に立つ木や植物を選択して育て、自然を持続的に活用してきた。その過程で、田んぼやあぜ道、草刈り場、燃料や堆肥にするため枯葉が除かれた林床など、様々な環境が生まれ、多くの生物がそこで命をつないできた。里山と言われるのは、そんな人の営みと自然が調和し、美しいと感じさせる環境のことだ。
日本の自然は、人が住んで適切に利用することで守られる。しかし昭和の高度成長期、田舎から多くの若者が都会に出てそのまま戻らず、地方の過疎化が進行した。昔は高かった木材の価格が下落して放置される山林が増え、耕作放棄地も拡大した。
その間に日本の森林は大きく成長し、今や60億㎥もの蓄積量に達している。手入れ不足で質に難があったとしても、合板や集成材などうまく使えば価値を生み出せる立派な資源だ。最近は林業現場でも本格的なICTの導入が始まっている。都市の木造化の動きは加速しつつあり、住宅の建築情報をデジタル化し、地元の森林資源情報とつないで手頃な価格で産直住宅を提供する技術も生まれている。獣害対策にまだ決め手は無いようだが、人が田舎に住み続けるための投資や研究開発が増えれば、解決の糸口も見つかるだろう。
都市部から田舎へ、近頃は特に若い移住者が増えている。高齢者が無くなるので人口は減っていくが、安定した仕事があり、快適な暮らしのもとで子孫を残せるコミュニティは存続するはずだ。人が植えた人工林は、伐って利用することで地域を支え、直接・間接的に里山の維持に役立つ。1ha程度の小規模な皆伐地は、オオタカのような猛禽類が餌を狩りやすく、繁殖に役立つとする研究もある。昔に戻るのではなく、先端技術を使って人と自然が折り合いをつけていく、シン里山暮らしが根付いていくといい。
林業には長い時間が必要だ。だからこそ、そこに希望を見出すことは、未来を創る仕事なのだと断言できる。ネイチャーポジティブ経済を、林業を活かすローカルポジティブから初めてはどうだろう。
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