先日、千葉市内で2×4木造アパートの上棟が行われました。100平方メートルの2階建て、大きな窓の数からみて、10戸程度が入居する建物でしょう。このアパートの建設には、いくつもの革新的なトピックが絡んでいました。
一つには、柱のほぼ全てに、国産の杉材を利用していることです。2×4で使われる木材の多くはカナダや欧州から輸入されており、国産材は1割程度と言われています。輸入されるSPF(スプルース・パイン・ファー)の木肌は白いので、通常の2×4建築には、どこか模型のような繊細さが伺えます。今回は杉がほとんどなので、内部には赤みを帯びた、生気溢れる空間が広がっていました。ある人が、SPFは寡黙、杉はおしゃべりだと表現していて、私もなるほどと深く頷いたものです。
日本の住宅建築では在来木造が8割、2×4は2割に留まっており、しかもSPFが極めて安い価格であったことから、国産材を扱う事業者はこれまで、頼まれても中々2×4用の製材を引き受けませんでした。2×4規格の長さに切ってしまえば、もう在来工法向けに販売することはできないからです。元林野庁の方のお話では、2×4が日本に入ってきた頃、日本の杉は若い間伐材しかなかったため、SPFに比べて、捻じれや曲がり、釘の支持力などが求められる水準に達しなかったのでは、とのことでした。そのイメージが定着していた事も、国内生産を妨げた一因かもしれません。今や杉は十分に成熟し、乾燥技術や工法の進化とも相まって、十分に使用に耐える素材になってきたのでしょう。
更に最近、ウッドショックや円安、新興国の需要増から、メーカー側に割高でも国産材の調達を進めようという機運が高まってきました。国産材を扱う側にも、住宅着工戸数の減少を見据え、リスクを取ってでも、外材が占めていた市場に進出しようという意欲が見られるようになっています。杉は強度が低いとされるものの、SPFに比べて曲がりや歪みが少ない上に軽く、扱い易いという利点があります。今後、国産材比率が高まっていくことは間違い無いでしょう。
もう一つは、日本では恐らく初の、サッシをつけた2×4パネルであること、そして更に、そのパネルが在来木造用の大型パネル工場で作られたということです。もともと2×4は枠組壁工法で、工場でパネルを作り、現場に運んで組み立てるのが普通です。しかし、面材を含む箱型にすることで精度や強度を保つという考え方から、一枚のパネルの状態では必ずしも剛性が高いとは言えず、重いサッシを取り付けて運ぶことはできなかったと聞きます。今回、在来木造のパネル化に挑んできたウッドステーションは、独自の技術でその課題を乗り越え、欧州で実現しているような、2×4パネルの完全な建築部品化を達成したと言えるでしょう。そして最も特筆すべきことは、そのパネルが巨大な工場でなく、わずか20メートル程度の在来木造用の組み立てラインで生産されたという事実ではないかと、私は思います。大工の知恵から生まれた簡単な器具をラインに追加するだけで、これまで厳然と別れ、交わることのなかった「在来」・「2×4」の境界を軽々と超えて見せた、これが今回の挑戦の最大の意義ではないでしょうか。
在来でも2×4でも、物流の2024年問題と言われるトラックドライバーの働き方改革で、一か所で大量に作り、遠くへ運ぶというビジネスモデルは終焉を迎えます。その後に来るものが、小規模・分散型の生産・流通システムだとすれば、その時こそ国産材の強みを生かせるチャンスでしょう。在来と2×4の両方に対応できれば、生産インフラは一か所で済み、両方の需要を取り込むことが可能です。山と暮らしを最短で結ぶスモールサプイライチェーンの実現、それを後押しする今回の成功を、関係者の皆様と共に喜びたいと思います。
国産材を活用したサプライチェーンが形になりつつあるということですね。赤松やカラ松でも応用出来るものでしょうか?もし可なら林業ど素人の私ですが全力で効用を説いて廻りたいです!
経田様
こんにちは。実はこのコメントにずっと気づかずにいました。誠に申し訳ありません。
Facebookの方でやり取りさせて頂いているので、今更とは思いますが、返信させて頂きます。
カラマツはやはり扱いの難しい材ですが、梁などには無垢が使えそうです。
ただやはりコスト的には競争力が弱く、その意味では合板も十分合理的な使用法だと考えています。
大事なのは販売先と価格が明確な状態で伐採し、できるだけ地元で使われること、それを目指す動きを支援していきます。